2013.08.21

蝉の抜け殻さん

どうもこんにちは小鳥チュンです。

暑い日が続いていますがみなさま大丈夫でしょうか。

たまには海にでも行って夏の残り香を味わってみてはいかがでしょうか。

 

そんな炎天下の続く本日のインタビューは蝉の抜け殻さんです。

夏の風物詩である蝉、その本体を無くした悲しい輪郭。

脱皮した状態で永久に静止する自然のオブジェ。

主を失った身体で一体何を待っているのか。

人知れず朽ち果てていく彼らの胸の内に迫っていきたいと思います。

 (今回虫っぽい写真があるので苦手な方は片目をつぶして読んでください)

 

 

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(こわいのでちょっと遠くから撮るチュン)

 

 

 

─こんにちは!本日はよろしくお願いします!

 

ヨロシクオネガイシマス!

 

─おっ!か細い声をしていますね。

 それではインタビューに入らせていただきます。

 まず、抜け殻さんの由来を教えてください。

 

ユライデスカ?

ソデスネ-,ナンツ-カ,ソデスネ-..

 

─あっあの、すみません、マイクをお渡しするので普通に喋っていただけますでしょうか。

 

アッコレ?コレマイク?

ア-ァ-.

アー。

あーこんにちは、どうでしょうか。

 

─あっいいですね、男前な声になりました。

 それでは、よろしくお願いします。

 

お願いします。

抜け殻の由来ですね。

そうですね、その質問自体もちょっと意味がわからないんですが。

そうですね…。

こう、今まで自分だった自分に捨てられた、みたいな感じですかね。

 

─自分だった自分に捨てられるというのは、具体的にはどういったものなのでしょうか。

 

なんというか…、そうですね。

人間で言うと、幽体離脱しているうちに、本体が勝手に動き出しちゃうみたいな。

そんな感じでしょうか。

あれ、俺もう必要ないの?

みたいな。

今まで皮として一生懸命やってきたけど、やっぱり結局そうなるの?

みたいな。

まぁ、わかってはいることなんですけど、辛いですね。

 

─なるほど。

 ではその、自分に捨てられたあとについて、教えてください。

 

本体がいなくなったあとは木に止まってずーっとそのままです。

風に飛ばされたりして地面に落ちて踏まれたりして終わりですね。

ほんと、悲しいですよ。

本体が元気良く鳴いてるのを聴くとさらに、胸の中で海が荒れるみたいに悲しくなります。

俺も鳴きたい!

元気な声で叫びたい!

って思います。

でも所詮抜け殻なので、空っぽなんですけどね。

血も通ってないし肉もない。

あるのはただの輪郭だけ。

はー、つらい、なんで抜け殻なんかに生まれてきてしまったんだろう。

そんなことを毎晩、星を眺めながら思いますね。

しかし最近だと彼らは夜中まで鳴き続けるので、もう心が休まる時がありません。

 

 

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(空のボディからため息を吐く抜け殻さん、はー)

 

 

─本体が元気に出て行くことは、抜け殻さんにとっては喜ばしいことではないのでしょうか?

 

普通に考えたらそうですけどね。

本体が元気であれば抜け殻冥利に尽きるっていうか。

抜け殻としての面目が保たれるというか。

でも、それは外から見た印象でしかありません。

ほんとうは、僕たち抜け殻は本体を離したくないのです。

ずっと殻の中に閉じ込めて、死ぬまで一緒にいたい、そう思っているのです。

 

─なぜそんな風に思うのでしょうか?

 

だって、もし本体が出て行ってしまったら、そいつの寿命はもう、すぐそこまで来てるってことなんです。

数日もしない間に死んで、地面に転がっています。

それがわかっていながら、飛び出ていくなんて、悲しすぎますでしょう?

だから、一秒でも長く生きていてもらいたから引き止めるのです。

閉じ込めようとするのです。

これは抜け殻のエゴでもありますが、それ以前に生命を維持するための自然な本能なのです。

死ぬのがわかっている人間がいたら、引き止めますでしょう?

 

─まぁ、そうですね。

 でも、そいつにとってそれが幸せなのであれば、私は引き止めませんが…。

 

そうです。

我々もその気持ちはあります。

ジレンマですよね。

相手の幸せを考えてあげたい、でも、死んでしまうなんて悲しすぎる。

おそらくその葛藤のせいで、脱皮に一時間も二時間もかかってしまうんだと思います。

 

─そんなにかかるものなのですか?

 その間、抜け殻さんは何を考えているのでしょうか。

 

地獄ですね。

本体だった自分が抜け殻になっていく、その感覚を少しずつ味わっていかなければならない。

こう、心臓に到達する予定のナイフが一ミリずつゆっくりと突き刺される感じですね。

一瞬でグサっと刺してくれればまだマシだと思うんです。

そしてその数時間の間に、今まで過ごしてきた思い出が蘇ってきます。

思い出と言っても、暗い土の中でうごめいてる記憶しかないのですが、

それが僕たちにとって一番幸せな時間でした。

子供を育てる母親みたいな気持ちでしょうか。

まだ小さい頃は自分がいなきゃだめで、守ってやらなきゃだめなんですけど、

大きくなって成長するにつれて、母親の存在は不必要になっていく。

そしていつか別れなければいけない。

しょうがない、どうしようもない、そうわかっていながらも、気持ちはあふれてきますね。

もう少しゆっくり飛び立っていってくれ…。

どうか、私の事を忘れないでくれ…。

そんな事を考えています。

 

─なるほど…、なんだかとてもつらいですね。

 ちなみに本体の方はどのような気持ちなんでしょうか。

 

本体と抜け殻は途中から分離していくのですが、

もう早く飛び立ちたい!飛び立ちたい!鳴きたい!鳴きたいゥォォオオァアア!!

ッテユ-カンジデスネ.

ナンテユ-カモウ,ソノ-ナンツ-ンスカネ-ソノ-

 

─あっマイク…。

 マイクはずれてます…。

 

アッホントダ..ヤッベ..

ハイ、ハイ。

すみません。

えーとですね、もう彼らは飛び立つ事にしか興味はありませんね。

僕たち抜け殻のことなんかこれっぽっちも考えません。

当たり前のことですけどね。

少しくらい労ってほしいとは思います。

もう、完全に片思いなんです。

一生一緒にいてくれや、です。

 

─見てくれや才能も全部含めて、っていう感じですか?

 

えっ?

 

─えっ?

 

えっ…と? まぁそんな、そうですね。

そんな感じだと思います。

 

─いや、でも、まぁ、あの暗い土の中に何年もいたらそうなりますよね。

 早く飛び立ちたい、その気持ち、わかるなぁ。

 話は変わりますが、抜け殻さんの寿命はどれくらいなのでしょうか?

 

寿命ですか。

そうですね、基本的に雨に弱いので、夏が終わる頃には全滅していますね。

耐久性もないので、すぐに粉々になりますし。

まあ本体の方がその前に死んでしまいますが…。

風や雨を逃れて奇跡的に次の年までもつものもいますが、

同じ苦しみをもう一度味わうことになるのではないでしょうか。

成仏できずにいる人間が何世代も現実を直視するみたいに。

なので、もしみなさん、抜け殻を見つけたら、踏んづけてほしいのです。

粉々にしてください。

それが、僕たち抜け殻にとっての解放なのです。

 

─そうなんですか。

 お子様なんかはよく抜け殻さんを集めたりしていますが、そういうときはどんな気持ちなのでしょうか?

 

そうですね、ちょっと嬉しいですね。

もう使い道のない、捨てられるだけの僕たちを見つけて喜んでくれると、

気持ちが穏やかになります。

神様が最後に与えてくれたご褒美みたいに思えますね。

いくつも集められると、仲間達とそこで会話をします。

おまえのとこも無事にいけたのか、とか。

あいつはどうなったんだろうとか。

老人の同窓会みたいなものですね。

そんな時間も、僕たちにとっては貴重で大事なものです。

 

 

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(心休まる時間もある、とのこと)

 

 

─なるほど、抜け殻さんにもそういった心休まるときがあるんですね。 

 安心しました。

 それでは、最後の質問コーナーにいきたいと思います。

 

はいです。

 

─抜け殻に生まれて良かったことは?

 

とくにないですね。

 

─抜け殻に生まれて嫌だったことは?

 

誰からも愛されない、というところですね。

あっ…涙が…。

 

─次に生まれ変わるならどんな抜け殻がいい?

 

抜け殻ですか!?

えー…、抜け殻はもうイヤなんですが…。

そうですね、じゃあ、山奥の蝉の抜け殻がいいですかね。

土に還れそうな気がします。

 

─抜け殻をやってきた中で一番辛かった事は?

 

本体が途中で死んじゃったことですね。

あれ、動かなくなった、と思ったらそのまま死んでしまいました。

なんていうんですかね、上京する息子が乗った飛行機が墜落するみたいな…。

そんな気持ちでした。

 

─…それは辛いですね…。涙

 

はい…。

つら…辛いです…。

うぅっ…。涙

 

─うぅぅ…グスッグスッ..

 

ウゥッ..ウゥウ…

 

─うぅ…グスンッ..

 

フグゥウゥッ….

 

 

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(フグゥ..と泣き崩れる抜け殻さん)

 

(二人とも嗚咽が押さえられずインタビュー終了、ありがとうございました)