2013.08.14
氷さん
どうもこんにちは、小鳥チュンです。
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
暑くてあつくて溶けちゃいたい、そんな毎日です。
本日のインタビューはそんな夏の救世主、氷さんです。
彼らがいなければ生きていけないほどのこの季節。
自らの体を溶かしながら冷気を発する捨て身のヒーロー。
繰り返し生産され繰り返し消えてゆく彼ら。
その刹那の存在である氷さんの信念とは。
透明な素顔に迫っていきたいと思います。
(ひんやり感満載の氷さん)
─こんにちは、本日はよろしくお願いします!
どうもこんにちは、お願いします。
─早速ですが、インタビューに入らせていただきたいと思います。
まず、氷さんにとっての夏とはなんでしょうか。
教えてください。
夏、ですか。
まあ、僕たちが一番活躍する季節ですよね。
暑くて苦しくてどうしようもない、そんな季節です。
多くの人に利用される季節ではありますが、僕たちは夏はあまり好きではありません。
─なぜ、あまり好きではないのでしょうか。
溶けてしまう、というのも理由の一つとしてあるのですが、
それだけではなくてですね。
まあ、単純に優しくないんですよ、夏は。
朝も夜も好きなだけ暑くなりっぱなしで、どこにも逃げ場が無い。
夏は基本的に意地が悪くて、自己中心的でわがままなんですね。
そういうところが嫌いです。
熱中症で何人も人を殺しているのに一向に暑くなるのを止めないでしょう。
季節だからって人を殺してもいいのか、って叱ってやりたくなりますね。
─なるほど。やはり、氷さんは寒い冬の方が好きなのでしょうか。
冬も嫌いですね。
僕たち氷なんか使いどころがないので、家庭の冷凍庫で長い間眠っています。
冬眠みたいな感じですかね。
冬は冬で退屈なので、嫌いです。
(夏も冬も嫌いな氷さん)
─では、好きな季節というと、どのような感じなのでしょうか。
季節に関して言えば、どれもあまり好きではありません。
冷凍庫の中が一番です。
温暖化の影響もないし、季節に左右されることもない。
一定の冷気のなかで過ごしているのが、僕たちにとっては一番なのです。
そんな事を言うと「おまえには風情ってもんがないのか」などと言われるのですが、
風情なんてくそくらえです。
─一体誰にそんな事を言われるのでしょうか。
同じ冷凍庫の中にいる、凍ってる豚肉とかですね。
たかが動物の死体の肉片なのに、冷凍にされて自分が大切にされてると思っているのでしょう。
カン違いしているんだと思います。
誰も聞いていないのをいいことに、いろんな事を言ってきます。
─どんな事を言われるのでしょうか。
おまえには味がない、とか。
そして色もない、とか。
ただの水が固まってんじゃねえ、とか。
ほとんど罵声ですね。
うるせえブタって言い返しますけど。
冷凍庫の中というのは、そういった意味では結構空気が悪いかもしれません。
お互いを貶め合う、という感じでしょうか。
─なぜそんな、貶め合うようなことになってしまうのでしょうか。
おそらく、みんな本来の姿ではないからだと思います。
ストレスが溜まってしまうんでしょうね。
僕たちだったら水が基本形で、豚肉の彼らも凍ってるなんてのは異常な状態なんです。
そういうストレスのはけ口のために、お互いを罵り合ってしまうのでしょう。
僕たちだってほんとうは、豚肉のことを憎んだりしてはいません。
はやく食肉らしく、火を通して熱々になってほしいと思います。
ですが、冷凍庫内の中ではどうしようもないのです。
凍っている限り、歩み寄ったりすることは不可能でしょう。
(眉間にシワを寄せて語る氷さん)
─なんだか冷凍庫のひんやりさわやかなイメージと違いますね……。
そんなにドロドロした世界だとは。
それでは、質問を変えてみたいと思います。
かき氷について、教えてください。
かき氷ですか。
あれもイヤですね。
生殺しです。
あんな粉々にされた状態で、自分のことを氷だなんて言いたくないですね。
─粉々の状態があまり良くないのでしょうか?
夏の定番で、昔から人気がありますが。
喜んで食べてもらえることはありがたいのですが、せっかく固まった僕たちにとって、
あんなに細かくされるのは屈辱なんです。
よく人気のあるかき氷の店だと、雪みたいにふわふわに削られたりしますでしょう?
─ああ、ありますね。
なんかあずきとか宇治金時とか、そんなちょっと高級なやつ。
あんなの最悪ですよ。
僕たち氷のことを全く考えていない商品です。
固まっていることが氷のアイデンティティであるのに、
それをふわふわに削られるなんて、もう、想像しただけで血管がブチ切れそうです。
─つまり、どういうことなのでしょうか。
氷さんにとって、固形物として固まっている自分がほんとうの自分だと、
そういう事でしょうか?
そうです。
どこからが氷でどこからが氷ではないか、その境界は極めて曖昧です。
氷であるからには、なるべく凍っていたいのです。
固形でありたいのです。
なんと言うか、そうですね……。
かき氷は、人間で例えると、バラバラにされた感じですね。
─バラバラですか?
はい、例えば人間の腕が一本だけ落ちていたとします。
─はい、物騒ですね。
それは人間と呼べますか?
─うーん、呼べないと思います。それは人間の一部であって、人間ではない。
まさにそれなんです。
かき氷も、氷の一部が集まっているだけで、氷ではないのです。
─確かに、なるほど。
バラバラにされた人間のパーツをすべて集めたとしても、それは人間ではないですよね。
それと全く同じです。
粉々にされたらもう、氷ではないのです。
(氷の定義について、熱く語る溶け気味の氷さん)
─なるほど、なんとなくですが、よくわかりました。
それでは、夏も冬も嫌い、かき氷もイヤだ、となると、
氷さんにとっての幸せとは、一体何なんでしょうか?
やはり、液体に入っているときです。
飲み物なんかに入ってるときが、自分の生命を全うしている感じで好きですね。
というか、それが唯一の幸せかもしれません。
僕たちの利用方法は様々ですが、きっとその時が最も幸せです。
なんというんでしょうか、生きながらにして、死を実感できるというか。
還る、という言葉がぴったりきますね。
僕たちの体は液体の中でだんだん溶けていって死んでいくのですが、
それが氷としての死でありながら、水への回帰でもある。
それがとてつもなく幸せですね。
─なるほど、わかりました。
それでは、単発の質問に入りたいと思います。
すみません、ちょっともう時間がマズいので、巻きでお願いします。
(ちょっとヤバいっす…と氷さん)
─あっはい、そうですね。
では、いかせていただきます。
氷さんにとっての憧れとは?
氷河期でしょうか。
野生の氷としてそこら中にはびこっていたいです。
─苦手なものは?
噛まれて砕かれることですね。
ゆっくりと溶けていきたいです。
─夢は?
氷枕に使用されることでしょうか。
人様の頭の温度で溶けてみたいです。
─生まれ変わるなら何になりたい?
アイスですね。
ガリガリ君みたいな氷っぽい奴じゃなくて、
スーパーカップみたいなまろやかなやつ。
─それでは、最後に一言お願いします。
……。
─氷さん、最後に一言……。
……。
─氷さん…?
……。
(さよなら氷さん…)
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