2013.11.01

風さん・光さん(文学フリマサンプル)

 

今回は書籍ということで、一風変わった方々にインタビューをしてみました。

風さんと光さんです。

いつもであればモノのみなさんにインタビューをしているのですが、今回は形のない彼らにいろいろお話を伺ってみました。

一部、掲載してみます。

どうぞ。



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まず一人目のインタビューは風さんです。

目に見えないけど、いつもそこにいる空気のような存在。

時に激しく、時に優しく私たちのいたるところに触れます。

彼らがどこから来てどこへ向かうのか。

生と死を繰り返す彼らの目的と、その意識とは。

その通りすぎていく切なる声に耳を澄ましていきたいと思います。

 

チ:どうもこんにちは、本日はよろしくお願いします!

 

風:はいーお願いします。

 

チ:見えませんが、そこにいらっしゃいますよね?

 

風:いますよー、ほら。フワッ

 

チ:あっいる、いますね。感じます、確かにそこにいます。それでは進めさせていただきたいと思います。まず、風さんの日常について、教えてください。

 

風:そうですね、わりと忙しいですね。吹いたり吹かれたりで。空間があるところだったらどこへでも行きますし、重力も引力も関係なく、こう、縦横無尽っていうんですか? そんな感じで、暴れ回ったりしてます。楽しいっちゃ楽しいですけど、まあ、そんなに楽しくないですね。はじめの方は良かったんですけどね、うわーいろんなところに行けるーって、でも今はもう、慣れちゃいましたね。どこに行っても何を見ても、感動することがなくなりました。生まれたての頃はもう無限の世界だと思っていたのですが、地球って意外と狭いんだなって、今は感じています。歳をとるということは残酷なことです。

 

チ:もうずっと吹いていらっしゃいますもんね。

 

風:そうなんです。これからも吹き続けないといけないと思うと、少し先が思いやられますね。休憩時間もほとんどないので、ほんとに結構過酷なんですよ。あんまり外からはそうは見えないかもしれないんですけど、体力勝負って言うか、体が資本みたいなところはありますよね。体調でも崩したら何もできませんし、家族も養っていかなきゃいけないので、気が抜けません。

 

チ:休憩時間というのは何をしているのでしょうか。

 

風:一切動かずに、なんて言うんでしょうか、無になっています。止まった瞬間に眠りに落ちるみたいな感じでしょうか。我々風は動いていないと風ではないので、そうですね、休憩中は存在していないということになるのかもしれません。でも、風としての意識まで失われるわけではないので、一応そこにはいるのです。とりあえずその間は、全力で休んでいます。人間だと休んでる間も心臓とか呼吸とか内臓とか基本的な機関は動き続けますが、我々はもう、隅々まで停止していますね。

 

チ:その時は、眠っているような状態で何も覚えていないのでしょうか。

 

風:そうですね、ほとんどの場合、目覚めたときに気づきます。あ、今寝てたんだ、休んでたんだって。ほんとにごくたまにですが、夢を見ることがあります。一年に一度くらい。起きた瞬間はそこまではっきりとは覚えていないのですが、なんか身に覚えのない記憶が残っていて、思い出してみると夢だったりするんですよね。

 

チ:どんな夢を見るのでしょうか。

 

風:行ったことある場所とかで、ひたすら走り回っている夢を見ます。現実での我々はいろんな方向に引っ張られたり押されたり流されたりして自分の意志などほとんど無いままに吹いているのですが、夢の中だとその制約がない状態で、好き放題に飛び回っていますね。もしかしたら普段溜まっているストレスのせいで、現実逃避の現れとしてその夢を見るのかも知れません。誰かに動かされるのではなく、もっと鳥のように自分の翼で自由に羽ばたきたい、その一生叶わない願いが、頭のなかで再生されるのではないでしょうか。なんだか自分で言ってて悲しくなってきましたが、そんな感じだと思います。

 

チ:風さんは地球上で最も自由なイメージがありますが、実際はそうではないのですね。

 

風:はい、我々は別に、好きで吹いているわけではありません。吹かなくてもいいなら休んでいたいし、吹くなら自分の意志で吹いていたいのです。常に外部の力によって動かされるので、自分というものがあるのかないのかわからなくなりますね。

 

チ:もし自分の意志で動けるとしたら、どのような場所に行きたいのでしょうか。

 

風:そうですね、やっぱり海の上か、雲の上にいきたいですね。あそこで飛ぶのはとても気持ちの良いものなんです。スピードも出ますし、なにより遮るものがないので、どこまでも走り続けていられます。仲間もたくさんいるので賑やかですし、彼らと結合してさらに強大になったりするので、時間を忘れて吹き続けられます。それか、全力で地上を這うように走り抜けたいですね。いろんなものを吹き上げながら、みなさんの注目の的になりたいです。人間動物問わず老若男女からキャーキャー言われたいですね。普段は透明で、あるのかないようなわからないような存在なので、たまには存在感をアピールしないと。悪い意味で空気みたいな存在になっちゃいますので。

 

チ:わりと目立ちたがりなんでしょうか。

 

風:目立ちたがりではないですけど、たまには、そんな風にみなさんに感じてもらいたいです。日常生活の中で風を意識的に感じることなんてあまり無いと思います。海に行ったりとか船に乗ったりとかバイクで走ったりとか山に登ったりとか、そういった非日常的な場所では「カゼキモチイイー」とか言いますが、例えば通勤途中にそんなことを感じることはあまりないと思います。だから特にそんな人たちに向けて、吹いてやりたいですね。おもっくそフルパワーで足元掬ってやりたいです。

 

チ:なるほど、相当ストレスが溜まっているようですね。

  風さんは季節によって在り方が変わってくると思いますが、それについて教えてください。

 

風:そうですね、例えば暑い夏の陽が落ちた頃なんかにちょっと吹くだけでありがたがられます。逆に全然吹かないでいるとクレームがくるくらいです。なので夏は結構、働きに見合った評価がされているというか、評価が甘くなりますね。そもそも団扇や扇風機など風を人工的に発生させるものまであるので、評価が甘くなるのは当たり前といえば当たり前なのですが。

 

チ:扇風機の風と自然に吹く風は、やはり風さんから見ても違うのでしょうか。

 

風:根本的にはあまり違いはありません。構造などの面ではどちらも同じ風です。ですが人工的に生まれた風は、寝ている人間にムチ打って働かせて吹かせているようなものなので、吹く側も吹かれる側も気持ちよくはないでしょう。風も吹きたくて吹いてるのではないので、やっぱり何事も気持ちのこもっていないものはダメっていう感じでしょうか。最強にした扇風機の風よりも、自然に吹くささやかな風の方が気持ちよいのはそのせいだと思います。でも、扇風機の彼らも頑張って吹いているので、褒めてやってほしいです。

 

チ:冬はどうなのでしょうか。

 

風:冬は嫌われ者ですね。夏は「風があって気持ちよい日」だったのが、冬は「風がなくておだやかな日」になります。少しでも吹くと嫌がられます。特に早朝の通勤途中の方なんか、ビルの下を歩いているとぶんぶん吹いたりするのでもう、ほんとにいなくなってほしいでしょうね。我々も吹きたくて吹いているのではないのですが、ちょっと反応が敏感になるので、わざと余計に吹いてやったりしてしまいます。少し吹くだけで「さぶっ!」って言ってくれるんですよ? もうなんか、俺はここにいるんだ……、みたいな自己顕示欲が満たされる感じがしてたまりません。

 

チ:普段、そんなに寂しい思いをしているのでしょうか。

 

風:いや別に特に寂しくはないですけど、まあ、しょうがないことだと思います。我々はそういうふうに出来てるんです。人間と一緒です、寂しいんです。

 

チ:寂しいんですね。

 

風:寂しいんです。

 

チ:わかりました。それでは風さん自身、好きな季節などはあるのでしょうか。

 

風:やっぱり暖かくなってきた頃の春が好きですね。心なしか気持ちもやわらかくなって………






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続きます。
寂しい風さんの全貌は書籍にて。

(ブースはB-33です)