2013.11.16

お玉さん

どうもこんにちは小鳥チュンです。

書籍の方を手に取っていただいた方々、ありがとうございました。

風さんと光さんとのインタビューいかがでしたでしょうか。

読んだ方も読んでない方も、感想などいただけるとチュン冥利に尽きます。

 

それでは、本日のインタビューはお玉さんです。

台所のお母さん役的なお玉さん。

そのゆったりとしたフォルムで数々の汁物を掬ってきました。

熱い物も冷たい物もナンノソノ精神で掬いまくりの彼ら。

そんなお玉さんが掬って来たものとは、そしてこぼしてしまったものとは。

お玉からこぼれたのは悲しみの涙か、それとも悔しさのヨダレか。

ひとつずつ、垂らさないように拾い集めていきたいと思います。

 

 

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(ゆらゆら揺れて待つお玉さん)

 

 

─どうもこんにちは、本日はよろしくお願いします!

 

はい、よろしくお願いします。

 

─それではまず、お玉さんの日常について、教えてください。

 

私たちの日常は、とにかく掬い続けることですね。

朝も昼も夜も、あらゆる家庭のキッチンでいろいろなものを掬い続けています。

みそ汁からスープからカレーからシチューから甘酒から、もうなんでも。

でも、料理をしないときは掬っていないように見えますでしょう?

人間の方からはそう見えるかもしれませんが、実は私たちはそのとき、空気を掬っているのです。

なにもない空間を掬い続けているのです。

なので、お玉である以上、何も掬っていない状態というのはないんですね。

その中身が変わっていくだけなのです。

 

─掬っているときの気持ちを教えてください。

 

中身にもよるんですが、やっぱりごってりしたものを掬ってるときが気持ち良いですね。

肉とかジャガイモとかがゴロゴロ入ったカレーなんか、手応えがあって良いです。

でもあんまりデュロデュロしてるの好きじゃないんです。

なんというか、まとわりつくというか。

煮込みすぎたカレーなんかね、なかなか手応えがあって良いんですけど、ちょっとキレが悪すぎますね。

注ぎ終えた後もまだいっぱいこびりついて残ってるじゃないですか。

あれが厄介ですね。

アレを取る為に鍋のフチでコンコン!なんてやられた日にはたまったもんじゃありません。

ヒエ-ってなります。

おやめくだされ〜って、なりますね。

 

─確かにとろみのある汁物なんかはこう、歯がゆい感じがしますね。

 逆にサラッとしたスープなんかはどうなのでしょうか?

 

そうですね、悪くはないですよ。

でも、暖簾に腕押しっていうんですか?

なんか、スッっと掬ってサラッと注ぐ、みたいな簡単な作業なのでやり甲斐はあまりないですね。

コンソメスープとか、まあ具がしっかりと入ってたらね、キタキタ-!なんて思いますけど。

わかめスープとか寂しいですね。

こんなフワッフワしたものを掬う為に生まれて来たのか私は、と落胆します。

別にわかめスープに罪があるわけではないのですが、そんな気分になります。

あと卵スープ。

あれもおいしいですけどね、手応えはありません。

フワッフワした卵をサルーンって注ぐだけですからね。

それであれば、こびりつく難点はありますが、カレーとかシチューの方が良いですね。

 

─なるほど、手応え重視なんですね。

 掬う物の温度なんかも関係あるのでしょうか。

 

なるべっくアッツアツなものが良いですね。

こう、私のボディはナイロン樹脂性なんですが、このボディが溶けるくらいアッツいものが良いです。

食べ物でそこまで温度上がるものも無いんですけどね、実際溶けたら困りますし。

過去に一度、燃えるほど熱した油の中に突っ込まれたことがありますが、あれは地獄でしたね。

全身に電流が走るっていうんですか、バチバチバチバチー! みたいなのがいきなり来ました。

あ、これかと思いました。

これが死か、と思いました。

一瞬だったので一命は取り留めたというか、今も元気にやってるんですが。

あれはびっくりしましたね。

非道だと思いました。

 

─鍋に入れっぱなしにしておくと、フチの金属とぶつかって溶けたりしてしまいますよね。

 

はい、よくあるんです。

キッチン用品だからわりと丈夫に作られてると思われがちですが、そんなことはありません。

もともとそこまで高温のものに触れる想定で作られていませんので。

一応200℃くらいまではイケるんですが、熱したフライパンや直火にさらされると死にます。

人間で言う火傷でただれた状態ですよね。

しかも溶けた部分は一生治る事はないので、もう、泣くしかありません。

誰が責任とってくれるのよ!? って、やられた方は泣きます。

毎晩泣きます。

でも、ほとんどの子達が泣いて終わらせてしまいます。

だってもう元に戻ることはないのはわかっているのですから。

そして、いつしかそれが彼らの勲章になるのです。

馬鹿な子達です……。

傷ついた自分の身体を誇らしげに思うなんて……。

そうでもしないと精神がもたないのはわかります、わかるんですけど……。

……ゴメンナサイネ…ズズッ…。



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(鼻をすするお玉さん)
  

─……はい、いろいろあるんですね。

 それでは、周りのキッチン用品の方々との関係を教えてください。

 

はい、まず、一番親しいのは、フライ返しさんでしょうか。

私たちはいつもセットにされています。

販売されるときなんかも、ひとまとめになってお得にされていたりします。

そして、彼はいっつも私の事を褒めてくれるのです。

「おまえはいっつもそんなに掬えてエライな、俺なんか平べったいから、全然ダメだ」

という事を彼はよく言います。

そんな彼に私は「あなたみたいなまっすぐな人、他に見た事無いわ」と言ってあげるのです。

彼はとても誠実で、正直で、まっすぐで実直なのに、自分に自信が無いんです。

本当はそんな彼を抱きしめてあげたいのですが、あいにく私には手も足もありません……。

 

─なるほど……、もしかして、お玉さん、フライ返しさんのことが好きなのでは?

 

いえ、昔は確かに好意を抱いていましたが、今は違います。

今ではともに戦う仲間なのです。

アッツアツのお鍋やフライパンに屈しないように支え合うことのできる、貴重な存在です。

そういう意味では私は彼を尊敬しているし、素敵な人だと思っています。

 

─ほんとうに、それだけですか?

 

何が言いたいんですか?

 

─ほんとうはまだ、恋愛として好きなんじゃないでしょうか?

 

それはありえません、超越したのです。

恋愛感情などという脆い絆ではつながっていないのです。

 

─そうですか。

 

そうです。

 

─それでは、ここでフライ返しさんからのメッセージを読ませていただきます。

 

えっ……ガタッ…

 

─どうしました?

 

いえ……、なんでもないです、どうぞ読んでください。

 

─それがですね、読むわけにはいかないんですよ。

 

なぜですか?

 

─あなたに恋愛的な好意が無いとわかったら、チュンはこれを読み上げる事ができないんです。

 ここで彼のメッセージを読み上げるという事は、フラれた後にラブレターを捧げるようなことなのです。

 

……えっ、それはどういう意味ですか…?

もしかしてフライ返しさんも私のことが好きということですか……?

 

─今、何ておっしゃいました?

 フライ返しさん「も」……?

 

あっ……いや…えっと…ハァハァ…

 

─もう正直に言ってください、そうすればチュンもこのメッセージを読む事が出来るのです。

 

えっと……。

はい…。

まだ、好きです、彼のことが……。

 

─どれくらい好きなのでしょうか、彼やチュンに伝わるように教えてください。

 

ずっと昔から……、フライ返しさんのことが好きでした。

彼がそばにいれくれるだけで、私は幸せなのです。

心から、愛しています……。

 

─ありがとうございます、フライ返しさんに対する想い、とてもよくわかりました。

 

はい……、恥ずかしいです、もうずっと言えないと思ってたので……。

それじゃ、あの、早くその……フライ返しさんからのメッセージを……。

 

─ありません。

 

えっ?

 

─メッセージなんてありません。

 

えっ……?

 

─えーとそれではですね、時間も迫ってきたので早速、質問コーナーに参りたいと思います!

 

……。

 

─今までで一番幸せだったことは?

 

……。

 

─今までで一番悲しかったことは?

 

……。

 

─次に生まれ変わるならどんなお玉になりたい?

 

……。

 

─お玉の仲間達に一言!

 

……。

 

─フライ返しさんに一言!

 

ピクッ……。

 

─ありがとうございましたー!

 

……。

 

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(鬼のオーラを放つ、無言のお玉さん)