2013.06.27
いくえみ綾 「私がいてもいなくても」(1)
こんにちは、橋本です。
今回、私が紹介したい作品は漫画です。
いくえみ綾という漫画家さんの「私がいてもいなくても」という作品です。
コミックスは全三巻、文庫サイズのコンパクトなものも1,2巻で出ています。
今から十年ちょっと前に集英社のマーガレットにて連載されていたものです。
私はいくえみ綾さんの漫画が大好きでよく読むのですが、
この漫画はいくえみさんと出会った最初の作品です。
姉の本棚にあったのを拝借して読んだのがきっかけです。
もう何年も前のことです……。(遠い目
当時どうして好きになっていったのか、はっきりとは覚えていないのですが、とても肌に合う感じがしたと思います。
漫画の中の世界観や空気感、登場人物のキャラクターやストーリーなど、ほとんどすべての要素が、言ってしまえばツボでした。
なぜ肌に合ったのか、何がツボをついたのか。
内容を追いつつ解いていきたいと思います。
あらすじとしては、
主人公であるフリーターの安倍晶子(あべしょうこ)(18)がいろいろある、
という感じです。
いや、いろいろはないかもしれません。
漫画の全体的に、派手な事件やエピソードはありません。
誰かが死ぬ訳でもないし、悲喜交々の大恋愛もない。
では、一体、全三巻の中に何があるのか?
それは、「彼らの日常」です。
彼らの感情や心の動き、時を経て変わる人物達の関係性の移り変わり、ほんの少しの成長など、です。
誰もが感じる自分の弱さや人の優しさ、馬鹿な間違いや少し暗い闇やわずかな光が、描かれていると思います。
「主人公の成長ストーリー」的に言う人もいるかもしれませんが、それは多分、違います。
成長させるためにストーリーが組まれたわけではなく、日常が描かれた結果、勝手に人物が成長していったのです。
すべての漫画にはゴールがあると思うのですが、この漫画のゴールは「主人公を成長させる」のではなく、それぞれの性格や事情を含んだキャラクターの「日常を描く」ことだと思っています。
それは、私たちの世界と同じ構造です。
私たちも、何かの物語の中に生まれ、そこで役割を与えられているわけではありません。
個々の存在が出会って、そこで初めて物語が発生するのです。
(鶏が先か、卵が先か、みたいな話になってしまいました……。
内容について、進めていきたいのですが、いちいちかいつまんで話すと大変なことになりそうなので、適度に端折って進めていきたいと思います。
まず、フリーターとしてウェイトレスとして働いていた安倍さんはクビになります。
道ばたで出会った中学時代の友人、神田川真希(当時はそこまで仲良くない)と横断歩道の上で再会。
真希は売れっ子漫画家になっていました。
安倍さんは真希のところで働くことになりました……。
……。
という風に書いていくと、あれですね。
もうプロットみたいになってしまいそうですね。
というわけで、読んでない人には申し訳ないのですが、
気になるシーンを各巻ごとにピックアップしていきたいと思います!
詳しい内容は買ったり借りたりしてその目で確かめてください!
それではまず、一巻。
登場人物
安部晶子(あべしょうこ)フリーター
神田川真希(かんだがわまき)漫画家 晶子の同級生
日山一(ひやまはじめ)漫画家 真希の恋人
菅野剛史(かんのたけし)晶子の恋人、途中で別れる
(※wikipediaでは剛司となっていますがコミックスでは剛史です)
袖野美穂(そでのみほ)晶子の友人
・母と子の会話
安倍さんとその母親の出てくるシーンです。
漫画のなかに随所にあるのですが、この二人の性格の合わなさがうまく露呈されていてとてもうまく描写されています。
また、安倍さんには兄がいるのですが、母親はその兄を溺愛し、妹(安倍さん)の方は放置です。
放置というか、いないものとして扱っている。
それが日常的になっているのがきちんと描かれています。
安倍さんの心の闇の核はここにありました。
・何故か満天の星空
安倍さんが真希のところに初めてのバイトに行きます。
そこでは自分の居場所がなく……、仕事が終わったら恋人である剛史に癒されたい!
と思って彼の家に行くとそこには浮気相手が。
逃げる安倍さん。
「あーなんかすっげーおもしろいことないかなー」
という台詞のバックに満天の星空。
全然素敵なシーンじゃないのに何故か心にくるところです。
・眼鏡を取ったら美少女的ないくえみ男子
神田川真希の恋人である日山ー(ひやまはじめ)。
この日山さんなんですが、始めの方ではもっさりのっそりと登場して真希の影みたいに描かれていますが、中盤で眼鏡を取ってひげをとったらいくえみ男子の出来上がりです。
やさしい目をして穏やかそうな彼に安倍さんはちょっといいなって思っちゃいます。
・「おかあさん ただいま」
兄にキレられて泣く母親、そこに安倍さん帰宅。
母親は「あの子がいればそれでいいのに……」と泣く。
母親の愚痴を一通り聞いたあとに、安倍さんの「おかあさん ただいま」。
その言葉に「わたしだってお母さんがいればそれでいいのに、お母さんは全然わたしにかまってくれないじゃない」という気持ちが含まれている気がするのですが、どうでしょうか。
関係性が如実に現れてる良いシーンです。
・安倍さん心の吐露
安倍さんの心がドロドロしてもやもやしてしまって、日山さんにちゅーしようとしてしまいます。
でも結局しないのですが。
そこで日山さんに本心(なんで母親は私を愛してくれないの)を打ち明けます。
このちゅー未遂からの吐露までのつながりが、とても絶妙です。
日山さんはやさしく安倍さんの頭を撫でます。
この時、日山さんの中にあるものが安倍さんの気持ちと共鳴していたのかもしれません。
・二人のことを少し好きになる
安倍さんは漫画家カップル(特に真希)があまり好きではありませんでしたが、最後の方で、一生懸命になってる二人を見て少し好きになります。
また、ちょっとだけ頼られるようになって、かなり心地よい感じになっているのがわかります。
「だっさいの」「かっこわる」という安倍さんの気持ちは二人に言われた「できるできる」「ありがとう」の照れ隠しです。
読んでいるこっちも嬉しくなるところです。
・ちょいちょい出てくるドア
この漫画ではよくドアが閉められます。
安倍さんが拒絶されている(と感じている)ときに表現としてよく出てきます。
終盤では「いつも 扉は閉められるものだしね」と言っているように、
安倍さんが今までずっと拒絶され続けたことを表しています。
一巻の終わりではそれを自らの手であけようとしています。
わかりやすいモチーフでちゃんと表現できているのが素敵です。
それでは次の二巻にいきましょう。
と、思ったのですが、ちょっと量が多くなってきたので、また次回……。
気になったら読んでみてください!
それでは!
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