2013.07.04
プチプチとコロコロ
プチプチは、実家に送る花瓶を包むためのプチプチする梱包材。
コロコロは、粘着シートのついたコロコロするクイックルワイパー的なもの。
ノザキはプチプチとコロコロを買うため、家から歩いて五分の駅ビルにある世界堂へ向かう。
梅雨の真ん中だったが、空には青空が恥ずかしそうに顔を覗かせていた。
半分だけ乾いた道を歩く度、ノザキのビーチサンダルが小さな餅をつくみたいな、ぺたんぺたんという音をたてる。
「プチプチとコロコロを買う」
そう思ったときに、ノザキの心はプチプチと弾けて、コロコロと回りだした。
まるで音そのものを買うみたいな気がして、楽しくなってしまったのだ。
遠くに聞こえる消防車のサイレンさえも、平和を演出するBGMのように聴こえた。
途中で、尾の白い小さな鳥を見かける。
プチコロすぞ、とノザキは小さな裏声で言ってみせた。
鳥はぴょんぴょんと二、三歩歩いてから飛んでいってしまう。
世界堂でプチプチを買い、同じフロアにある100円ショップでコロコロを買った。
ノザキはプチプチを左脇に、コロコロの入った袋を右手にぶら下げて歩いた。
家の近くまでくると、騒がしい雰囲気に気付く。
消防車と救急車と人だかりが見えた。
近くで火事があったのだ。
不謹慎な野次馬心で、ノザキの胸が高鳴る。
炎が見えた瞬間、駆け足だったノザキの足が止まった。
燃えているのはノザキの家だった。
梅雨の気まぐれな青空の下で、炎は高々と猛り続けた。
性格の悪いライオンが捉えた獲物を意味もなくなぶるように、火は家を執拗になで回した。
ビーチサンダルの緒が、急に足にくい込んでくる。
ノザキに抱えられたまま、プチプチとコロコロはいつのまにか音を失っていた。
(終)
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