2013.08.07
両面テープさん
どうもこんにちは、みなさまお元気でしょうか、小鳥チュンです。
本日のインタビューは両面テープさんです。
表も裏もベットベト。
一度張り合わせたらもう剥がれない安定の頑固さ。
それなのにどこか清潔でスタイリッシュなカタチ。
一家に一台あるかないかの瀬戸際に漂う両面テープさん。
剥離紙(はくりし)との運命の別れに震える彼らの本心に迫っていきたいと思います!
(大は小を兼ねる、という言葉にへこむ小さい方の両面テープ氏)
─こんにちは!
本日はよろしくお願いいたします!
ハイ、よろしくお願いします。
─それでは、ですね、まずそのツルツルした面について、教えてください。
あっ、剥離紙のことですか?
─そうです、ベトベトじゃないほうです。
わかりました。
これはですね、剥離紙と言いまして、名前の通り、剥離されるためだけの悲しい存在です。
でも、私たちにとっても使用する人々にとっても、この剥離紙がないと、非常に困るのです。
両面テープの主役はこの剥離紙であると言っても過言ではありません。
─もし両面テープに剥離紙がなかった場合、どうなりますか?
最初からもう、両面がベトベトですね。
私たちはご覧の通り、こう、ロール状に巻かれて製造されるので、その時点ですでにアウトです。
ただの粘着の塊です。
─粘着の鬼、ですか。
いえ、違います。
塊です。
鬼ではなく、塊。
─あ、なるほど、失礼しました。
音声インタビューなのに漢字で間違えるってどういうことですか。笑
─だからすんませんでした。
あっ怒らないでください怖いです。
─それでは、その、剥離紙を剥離される際の気持ちをお聞かせください。
剥離される時の気持ちはですね、なんといいますか。
ロケットになったみたいな気持ちになりますね。
─ロケットですか、そのこころは?
あのー、ロケットは宇宙に飛び立つじゃないですか。
あれ、途中でなんかポロってとれますでしょう?
なんか、片道の燃料とかエンジンとかそんな感じのものが。
それに似てますね。
放たれるっていうか、行ってきますっていうか、そんな感じです。
もう戻って来れないんだなって思います。
─確かに、一度剥離されたらもう戻せませんね。
やはり、不安なのでしょうか?
そうですね、緊張でいっぱいになります。
うまく貼付けられるだろうか、でも、もうやるしかない。
あの暖かかった場所にはもう、帰れないんだ。
振り向いたらダメだ。
母さん、父さん、今までありがとう。
母さん達の子供に産まれてきて、ほんとに良かった…。
そんな気持ちになりますね。
あっ……、涙が…。
─あっコチラお使いください。|ω・)っ【ティッシュ】
すびません…。
ズビ-ッ!(鼻水)
(別れの剥離紙)
─なんだか、例えていいのかわかりませんが、特攻隊みたいですね。
はい、いつも命がけです。
両面に粘着材が付いているので、自分自身にくっつかないようにするのも大変なのです。
身体をくねらせながら、こう、自分で自分を避ける、みたいな感じになります。
─なるほど、やはり、そういった点でも普通の片面のセロハンテープみたいな
ものとはワケが違うんですね。
もちろんです。
彼らは片方だけに貼付ければいいので、とてもシンプルで簡単です。
小学生など小さなお子様達にも親しまれているでしょう。
しかし、私たちの扱いは少し、大変なので、そうですね、
言うなればプロフェッショナル向け、という事なのだと思います。
─プロフェッショナル向け、ですか。
それはかっこいいですね。
ありがとうございます。
それと、扱うレベルの高さとは別に、もう一つかっこいい点があるのです。
─それはどんなことでしょうか。
私たちは、役目を果たしたと同時に姿を消すのです。
─姿を消す? いなくなってしまうということでしょうか。
いえ、いなくなりはしません。
ずっとそこにいながらも、誰の目からも見えなくなるのです。
両面テープの性質や用途として、二つのものを張り合わせるという特性があります。
すると、その二つのものをくっつけると同時に、見えなくなってしまうのです。
その二つのものの間でただ息をひそめて、粘着するという使命を全うし続けるのです。
─なるほど、確かにくっつけたら見えなくなってしまいますね。
それが、私たち両面テープと普通の片面テープとの違いです。
すごくかっこいいんです。
─確かに、そのように言われるととてもかっこよく思えてきました。
その、粘着して二つの間に挟まっているときは、どんなお気持ちなのでしょうか。
これは、両面テープの本能だと思うのですが、ほとんど眠ってしまいますね。
─眠る、ですか。
死んでしまう、ということではなく?
はい、死とは違います。
意識がだんだんと薄れて、ぼんやりとした時間が流れはじめます。
動物の冬眠などに近いのでしょうか。
強制的な休息状態になるのです。
おそらく、これは私の推測なのですが、しっかりとした意識を持っていながらそこで永遠に貼り付き続けるのは、苦しくて頭がおかしくなってしまうと思うので、そういう本能的な危機回避の機能が作用しているのだと思います。
─高性能ですね。
そうですね。
やはり細胞レベルで他のテープとはワケが違うんだと思います。
(おもむろに寝転がる両面テープ氏)
─それでは、両面テープさんの「死」とは、どのようなときに訪れるのでしょうか?
私たちは、基本的に死にません。
今までに死んだ事がないのです。
─死なない、というと、永遠に生き続けるということでしょうか。
その通りです。
どんな状態にあっても、意識を失う事はなく、活動を続けています。
─無敵じゃないですか。
はい、しかし、貼付けに失敗したときも死ぬ事はないので、その場合は永遠の生き地獄です。
とても苦しい日々が、この世界が終わるまで続きます。
─それは苦しそうですね…。
しかしなぜ、そのような悲しいつくりになっているのでしょうか。
死ねない、というのは非常に辛いとも思うのですが。
そうですね、それに関しては、私たちにはわかりません。
そもそも生きているのかどうかもわからないので、ぶっちゃけそこらへんはどうでもいいんですが。
─んっ?
んっ?
─どうでもいい、と。
はい、私たちはただの両面テープなので、そこらへんに関しては別に、こう、どうでもいいですね。
─そもそも生きているのかどうかもわからない、と。
はい、両面テープなんで。
─ではなぜに基本的に死なないとか言ったのでしょうか。
流れ、ですね。
空気読むの得意なんで。
─ほぉ。
ハイ。
─ほぉぉ。
あれっ怒ってらっしゃる?
─いえ、全然怒ってないですよ。
それでは、本日のインタビューは両面テープさんでした!
えっ!ちょっ終わっちゃうんですか?
─そろそろ時間なんで。
えっいつもの締めの質問みたいなヤツはないんですか?
─そうですねそろそろ時間なんで。
怒ってますよね?
─怒ってないですよ。
なんで怒ってるんですか?
─なんかイラッとしてしまって。
怒ってるんじゃないですか…。
─いや、怒ってないですよ。
それでは、本日はありがとうございました!
あっえっ…。
(突然の終了に立ち尽くす両面テープ氏)
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