2013.07.08

カボチャと月のお吸いもの

厳しい冬でした。

 

とある山奥に、狸の母子がいました。

 

母子はえさにありつけず、長い間、何も食べていませんでした。

 

母狸の方はまだ大丈夫ですが、子狸はもう、今にも死んでしまいそうです。

 

 

 

雪の深い夜、母子はほら穴で身を寄せていました。

 

「この子は今夜、死んでしまう」

 

息が浅くなっていく子狸を抱いて、母狸は思いました。

 

必死に子狸の背中をさすってやりました。

 

そんな事をしても意味はないとわかっていながら。

 

いつまでも、さすってやりました。

 

 

 

ふと気付くと、ほら穴の入り口から光が射し込んでいるのが見えました。

 

母狸は子狸を抱えて外に出てみます。

 

すると、さっきまで激しく降っていた雪はぱったりと止み、何日も居座っていた重たい雲が消えていました。

 

そして、今までに見た事のない、巨大な満月が太陽のように光っていました。

 

 

 

「お月さまがまんまるだ、あれが食べられたらなあ」

 

 

 

子狸は目を薄く開けて言いました。

 

母狸はそれを聞くと、子狸を置いて一目散に里へと下りていきました。

 

雪も風もないとなれば、里まで下りるのは簡単なことでした。

 

 

 

母狸は、民家の畑から出来損ないのカボチャを盗み、途中で仕留めたネズミをくわえて帰ってきました。

 

そして、雪どけ水でお吸い物を作りました。

 

ねずみをダシに使いました。

 

笹の葉で作ったお椀によそって、子狸に差し出しました。

 

 

 

「見えるかい?」

 

 

 

ほとんど眠ってしまった子狸は、わずかに目を開けてお椀を見ます。

 

 

 

「カボチャと、お月さまだ」

 

 

 

水面に映る丸い月を見て、ほんの少しだけ笑いました。

 

母狸は少しずつ飲ませましたが、子狸はほとんどをこぼしてしまいました。

 

お椀にはカボチャの塊だけが残りました。

 

 

 

「お月さま、おいしかった。母さん、ありがとう」

 

 

 

そう言って眠ると、子狸は二度と目を覚ましませんでした。

 

 

 

母狸は次の日、固くなった子狸を隅々まで洗い、骨と皮を残してすべて食べてしまいました。

 

母狸はそのほら穴で冬を乗り越え、春を迎えました。

 

そして、オスの狸と出会い、新たな命を授かりました。

 

それから母狸は、新しい夫と子供と幸せな日々を過ごしました。

 

 

 

とある満月の夜、母狸はどうしても月が食べたくなってしまいました。

 

あの時と同じ、カボチャと月のお吸いものを作りました。

 

ダシはカエルでとりました。

 

ひとくち飲むと、食べてしまった子狸のことを思い出して、泣きました。

 

涙がお吸いもののなかに落ちて、浮かんでいた月がゆらゆらと揺れました。

 

 

 

 

(終)