2013.07.31

画鋲さん

みなさんこんにちは、小鳥チュンです。

 

本日のインタビューは画鋲さんです。

小さい体ながらもその鋭い針でどんなものでも貫く男らしさ。

指にフィットする無駄の無いフォルム。

単純な形の組み合わせが成せる脅威の掲示力。

針が折れるまで貫き、そして留まり続ける彼らの勇士。

たまに踏んでしまうと悶絶するほどの破壊力の秘密を今、解き明かします。

 

 

 

1

(わらわらと群がる画鋲さん)

 

 

 

─どうもこんにちは!

 この度はよろしくお願いいたします!

 

どうぞよろしくお願いします。

 

─それではですね、さっそくですが、

 画鋲に生まれてきたお気持ちをお聞かせください。

 

生まれてきた気持ち、ですか。

そうですね。

生まれたときから、こう、刺したいな、なんでもいいから刺していたいな、という気持ちでいっぱいでした。

今でもそうです。

刺したいな、と思い続けてます。

人間の三大欲求と同じだと思います。

とにかく刺したいのです。

 

─とくに、何を刺したいのでしょうか?

 

やはり我々画鋲の主な使命というのは、こう、刺して留める、ということなので。

やはり、そうですね。

最低でも二つ以上の物体を刺していたいです。

紙と壁、だったり。

留めたい対象と、留めるための対象、その二つですね。

そして、その二つの柔らかさと固さが対照的だと、さらに良いです。

ティッシュとヒノキとか。

布とヒノキとか。

そういうものだと留めがいがありますね。

 

─なるほど、やはり刺す事、留める事が生き甲斐であると?

 

はい、そうです。

なので、今の私のような、何も刺していない状態。

これは本当はよくありません。

本来の姿ではないのです。

非常に、こう、落ち着かないですよね。

見えちゃいけないところが見えている、という感じです。

 

─見えちゃいけないところ、というのは針の事でしょうか。

 

そうです、その通り。

この針の部分ですが、本来ならば何かに刺さってないといけないのです。

それが露になってしまっているので、よくないですね。

私たちの気持ちの部分でも良くないですが、使う方々にとっても危険です。

針が露呈している、ということは、何にでも刺さる可能性がある、ということですから、そういう安全性の部分から見ても、正しい状態ではありません。

今すぐに刺してください。

 

─使う方の安全性も考えておられるのですね。

 

モチロンです。

この針の長さも、確かな安全性のもとに設計されています。

刺さっても重大な事故にならないように、でもしっかりとした留め力を発揮できるような、ギリギリな長さになっていると思います。

 

─思います、というのは?

 

わたしの想像です。

きっとそうです。

 

 

3

(きっとそうなんです…、と画鋲さん)

 

 

─逆に、刺したくないもの、というのは何でしょうか。

 

生き物ですね。

滅多にないのですが、生き物に刺さるのはほんとにやめてほしいと思っています。

特に魚。

 

─魚に画鋲、ですか。

 あまり聴いたことはないですが、そういったこともあるのでしょうか。

 

はい、ほんとうにたまにですが。

おそらく1000年に一度くらいだと思いますが、あります。

あのヌンメリした肌にズロロロっと刺さっていく感じ……。

思い出しても鳥肌がスタンディングオベーションです。

 

─感触が気持ち悪い、ということでしょうか。

 

はい、苦手です。

このメタリックで堅牢な私たちの肌には合わないのです。

また、生き物に刺さるときは他の物体と刺さるときと違って、

破壊している、という感覚が強いのです。

紙や木、段ボールやプラスチックに刺さるときなどは隙間を縫っている、という感覚があります。

繊維と繊維の間を通っている、という感じですね。

でも生き物に刺さる時、その細胞を破壊しながら進んでいく気がして、とても気持ちが悪いのです。

もう、ほんともうカンベンして欲しいですね。

決してやらないでほしいです。

 

─僕も昔、よく画鋲さんを踏んづけて血が出たことがありますが。

 

ああ、ほんとうに申し訳ない。

申し訳ない、と思うと同時にしっかりと管理してほしいと思います。

踏んだ時、みなさん決まって

「誰だよこんなとこに置いたの!」

とか

「なんでこんなとこに画鋲置いてあるんだよ!」

とか言います。

片足でぴょんぴょんしながら。

 

─ああ、言いますね。

 僕も言ったと思います。

 よくわからないのですが、めちゃくちゃイラッとした記憶があります。

 

私たちも、そんな、人間の足なんて刺したくないですよ?

それなのに、みなさんの管理が甘くて刺してしまう。

仰向けで家の廊下なんかに転がってるときはもう、

ハラハラドキドキですよ。

まきびしになった気分です。

あんなのと一緒になりたくありません。

 

─管理をしっかりしろ、ということですね。

 

はい、というか、刺さってない画鋲があったら今すぐさせ!

ということですね。

それが一番正しい行いです。

そうすることで我々画鋲も一応の役目を果たせますし、

人間に害を与えたりしません。

また、空気に触れないので劣化する具合が減少します。

オススメです。

 

 

2

(正しい行いをオススメする画鋲さん達)

 

 

─素材として刺したいのはどんなものでしょうか?

 

そうですね。

刺した事ないのですが、パンでしょうか。

 

─パンですか? あの、食べる方の。

 

そうです。

ふっくらしてもふもふしてさくさくしたパンに、こう、スイっ と刺さってみたいですね。

クリームパンなんかがいいと思います。

我々の針の長さでは決してクリームには届かないと思うのですが、それがなんかやるせなくて、また、いい感じになると思います。

カレーパンでもいいですね。

カリカリッとした表面にサクッと入っていく感じ。

なんだかおなかが空いてきました。

 

─食べ物に刺さってる画鋲さんは、あまり見たことがないですね。

 

そうでしょう。

画鋲として生まれたからにはやはりいろんなものを刺したいですね。

熱々の焼きたてのステーキとか。

レアチーズケーキなんかもいいかもしれません。

スイっと刺さりたいです。

 

─なるほど…。

 それでは、そろそろ質問の方にいきたいと思います。

 

ほいっす。

 

─画鋲さんの幸せなときは?

 

まだ何にも汚れてない壁紙に刺さるときですね。

一番乗りだー!って思います。

まだ一つも穴の開いていない……、

言ってしまえば穢れてない少女に傷をつける、みたいな気持ちですね。

 

─むなしいときは?

 

すでに穴の開いてる部分にもう一度刺されることですね。

誰かが着たものをもう一度着るとか、

誰かが使った皿を洗わずにそれでもう一度食べるとか、

そういった気持ちになります。

なんか、虐げられてる。

あれ、なんで俺ここにいるんだろう。

なんで生まれてきたんだっけ。

そういう思いが一気にあふれてきます。

これはよくあることなのですが、やめてほしいですね。

壁に穴があくのが嫌な気持ちもわかります。

ですが、刺すならちゃんと新しい部分に刺してください。

画鋲からの、お願いです。

 

 

4

(背中で語る画鋲氏)

 

 

─願いとは?

 

そうですね、願いですか。

やっぱりきれいな正しい死に方をしたいですよね。

みなさん、画鋲がいつどこで死んでいくか知っていますか?

いつの間にかなくなってる、というのが多いのはないでしょうか。

そんな感じで消えていくのではなく、古くなって使えなくなったから捨てよう、今までお疲れさま、という感じで温かく死んでいきたいのです。

最悪なのはアレですね。

針が折れて壁に針だけ埋まった状態です。

絶望です。

これはみなさんにとっても絶望じゃないでしょうか。

折れるということは画鋲にとって即死を意味します。

ただ折れてしまうのなら寿命や劣化のせいでしょうがない、と思えるのですが、刺さったまま折れてしまうと、もう、何を感じていいのかわかりません。

壁に入ったままの針は、よほどの事が無い限り取り出されません。

その壁が壊れるまで永遠に刺さり続けるのです。

リビングデッドですね。

想像しただけでも折れてしまいそうです。

 

─やさしさとは?

 

やさしさですか?

使い方を間違えないことですね。

正しく使えば、それがやさしさになります。

これは我々画鋲だけではなく、すべてのモノに言えます。

モノは正しく使いましょう。

それがやさしさになります。

 

─それでは、お時間となりました。

 今日はありがとうございました。

 

ありがとうございました!

君に幸アレ!!

 

 

5

(インタビュー終了と同時にわらわらと群がる画鋲さんたち)