2013.06.24
イクラオムレツ
オムレツの中にイクラを入れた。
チキンライスでもなく、牛肉でもない。
ふわふわとした卵にナイフを入れると、魚を帝王切開したみたいに、
少ししぼんだイクラが、もろもろと流れ出てくる。
イクラには卵の熱が入ってしまって、少し白っぽく濁っていた。
ナイフとフォークで切ったものを、スプーンですくって食べる。
見た目にはハリのないイクラだったが、口の中でプッチプッチと勢い良く弾けた。
ほどよく甘くて、ほどよくしょっぱい、いつもの赤い味がした。
私と彼氏はそれをおかずにして、白いご飯を食べた。
彼氏は、うまい、うまい、と言いながら食べてくれた。
確かに、イクラオムレツはおいしかったし、それを炊きたての白いご飯で食べるのもおいしかった。
でも、と私は思う。
どうして怒ってくれないの?
なんでオムレツにイクラなんて入れるんだよって。
どうして機嫌を悪くしてくれないの?
味なんて、本当はどうでも良かった。
私はあなたに怒ってほしかった。
それで私はあなたに、ごめんね、って言いたかった。
それだけなのに。
でも、イクラオムレツは本当においしくて、私もおいしいと言いながら、最後まで食べた。
そのあと、二人でチョコレートを食べながらテレビを見た。
画面の中では、どこかの国とどこかの国がサッカーの試合をしていた。
奥歯の隙間で息をひそめていたイクラがプッチと弾けて、チョコレートの味と混ざった。
「ごめんね」
私はテレビに向かって言う。
「何が?」
彼は私の少し上の方から、私を見て言う。
「わたし、あなたのこと、全然すきじゃない」
言葉を吐き出したら、口の中に畑の土みたいな味が広がった。
オムレツの中に、イクラとチョコレートを入れてやれば良かった。
どこかの国の選手がシュートを外すのを見ながら、私はそう思った。
(終)