2013.07.18

スチルボール

まるやまが投げたボールが消えた。

 

高く投げたフライは雲の敷き詰められた空に見えなくなって、そのまま落ちて来なかった。

ボールが消えたあたりの場所には、光が拡散してまぶしい。

目を細めて白と薄い灰色のグラデーションを見る。

まるやまもどうしていいかわからない顔で、肩をすくめてみせた。

 

「どこいった?」と、俺が聞く。

 

「知らん」と、まるやま。

 

「高く投げすぎなんだよ」

 

まるやまは、コントロールは悪いくせに真上に投げるのは得意だった。

放り投げてから地上に落ちてくるまでに、いつも5秒くらいかかっていた。

鳥がくわえていったか、それかあさっての方向に投げすぎてどこか別の場所に落ちてしまったか。

持っていたボールはその一球だけだったので、俺とまるやまは所在なくなってベンチに座った。

 

電車が橋を通って、音が夕焼けに響いた。

ワイシャツが汗でじっとりとこびりついている。

グラウンドは昼間の太陽に照らされ続けた鬱憤をはらすように、地表から熱を放出していた。

 

「こんな格好でキャッチボールなんてやるもんじゃないな」

 

しわだらけのワイシャツでまるやまが言う。

高校時代の筋肉質で肉体的だった肩は、今では少し丸く、柔らかくなっていた。

 

「なぁ、まるやま。今回のことは本当につらくて残念だったけど、おまえだけが……」

 

一息ついてから俺が話しだした時、まるやまは上空を指さして、あれ、と言った。

まるやまの指の先にはボールがあった。

粒のように小さくなったボールは上空で、透明な接着剤で固定されたようにぴったりと静止していた。

 

俺とまるやまは爆笑した。

 

なんでだよとかありえねえとか言って、腹筋が痛くなるほど笑い続けた。

その後、俺とまるやまは話をした。

話が終わる頃には風は涼しくなり、薄暗くやわらかい闇に包まれていた。

帰ろうと立ち上がって尻をぽんぽんとはたいた後に、あれ、と言ってまるやまは上空を指さした。

 

静止していたボールが、ちりちりと輝いていた。

 

 

 

 

(終)