2013.07.15

恋するクレヨン

赤い君は、だんだん短くなっていく。

 

青い僕は、ちょっとしか減ってない。

 

それは、あの子が赤色が好きだから。

 

 

 

好きなものから減っていくなんて、なんて哀しいことだろう。

 

嫌いなものだけあとに残るなんて、なんて残酷なことだろう。

 

 

 

やがて、赤い君は僕の足元まですり減った。

 

 

 

このままではいなくなってしまう。

 

どうにかしないと。

 

 

 

「天気の良い日に、海に行こう」

 

毎日絵を描くあの子に、僕はそう言った。

 

青空と海を描くには、僕の青色が必要だ。

 

赤い君は、あんまり減らないだろう。

 

 

 

次の日、僕は海でめいっぱい短くなった。

 

赤い君も、太陽を描くのでちょっと減った。

 

少しは近づけた気がするけど、それでもまだ、追いつけはしなかった。

 

 

 

それから何日かした後、親指の爪くらいになった赤い君は、捨てられてしまった。

 

違う日に、新しい赤色の子が入ってきた。

 

けれどもう、それは君じゃない。

 

 

 

「さようなら」

 

 

 

僕は誰にでもなく、そう言った。

 

その時からだ。

 

あの日に行った海の音が、ずっと鳴り止まないんだ。

 

 

 

 

 

(終)