2013.10.09

ラップさん

どうもお久しぶりです、小鳥のチュンです。

しばらく休んでいましたが、夏休みをいただいていたのだと思います。

 

本日のインタビューはラップさんです。

透明な薄っぺらい身体であらゆるものを包む包容力。

引っ張られても殴られても決して破れることのない強靭なバディ。

でも切れ目を入れるとするすると切れていくツンデレ気味のラップさん。

頑張れば繰り返し使えるというエコの瀬戸際に佇む彼ら。

そんな彼らの薄くて透明な半生、そして未来について踏み込んでいきます。

 

 

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(静かに時を待つラップさん)

 

 

─本日はよろしくお願いします!

 

あ、どうも。

よろしくお願いします。

 

─まずはラップさんの普段の生活から教えてください。

 

普段はですね、こう、ロール状になってますね。

ぴったりとお互いにくっつきあって。

くっつきあってって言っても一つの薄長い物体なんですけど。

身体を、こう、密着させあって、みたいな。

一日に何回か使われるくらいで、あとは沈黙を守っています。

ぴったりとくっつきあってるので、息も出来ない感じです。

そうですね、普段は息苦しい、この一言に尽きます。

 

─なるほど。ラップさんといえば使用される際に切り取られるのが一番の見せ場だと思いますが、

 刃で切り取られるときは、どんな気持ちなのでしょうか。

 

恐いですね。

ただただ恐怖です。

どんな痛みが待っているんだろうって、足が震えてきます、足ないですけど。

でも、人間の注射みたいに、終わってしまうとなんともないんですよね。

あ、こんなもんか、って思います。

わりと開放感です。

切り離された方に別れを告げます。

頑張れよ、ちゃんとぴっちりラップしてこいよって。

上京する息子に言うみたいな気持ちになります。

まぁ、でもそれはちゃんとうまく切り取られた場合なんですが。

ちゃんと奇麗に切り離されなかったときとか、ぐちゃぐちゃになってしまう時がありますが、あれはもう、絶望ですね。

何のために今までその部分はラップとして生まれて長い間息を潜めてきたんだろう。

なんて言えば救われるんだろう。

仲間にこんなひどいことをした奴は許せない。

いつか復讐してやる。

と、そんな感じの暗黒な気持ちになります。

 

─失敗するとき、確かにありますね。

 それは使用する人間の方も、残念だったと思っていると思います。

 

それはラップの責任ではなく人間の責任です。

最近は工業技術も進歩して大変切り取りやすくなりました。

それなのに失敗する人間が全て悪いんです。

ラップというのはものを包んで初めてラップになるのです。

切り取られた時点で使い物にならなかったらもう、ラップではなくただの透明のぺらぺらなゴミです。

長年土の中で眠った蝉が出てこようとしたらアスファルトが敷かれて出てこれなかったっていうレベルの絶望ですよわかりますか?

 

─そう考えると不憫ですね。

 

いやいや、不憫とかじゃないんですって。

ちゃんと考えてますか?

ちゃんと考えていたら不憫だなんて言えないですよ。

まず、詫びるべきです。

今までラップになりきれなかったラップ達に対して、謝罪するべきなんです。

自分たちの過ちを認めて謝罪し賠償をするべきなんです。

 

─チッ、どうもすんませんっした。

 

ほら、すぐそういうひねくれた態度をおとりになる。

そうなんですよ、人間はいつもそうです。

ラップを切り取るのを失敗したのは自分なのに、我々に文句を言うんです。

「なんだよコイツ切り取りにくいな」って。

そうじゃなくてオマエが切り取るのが下手なんだよ!って言いたいんです。

オマエが!切り取るのが!下手なんだよ!って。

でもラップには口がないのでそんな事言えません。

なのでひっそりと復讐してやるのです。

 

─復讐とはどんなものでしょうか。

 

平たく言うと、もっと切り取りにくくしてやることですね。

わざとヨレヨレしてやったり、一部だけに力を入れて硬くしてやったり。

そうするとまた失敗して、人間はさらにイライラします。

我々はそれを見てほくそ笑んでいるのです。

あとは切り取った後、ラップ同士がすぐにくっついて使えなくしたり。

何回も失敗しているところを見るのは爽快です。

胸がすっとします。

映像に撮ってYouTubeに載せたいくらいです。

 

─それだと仲間がまた死んでいくだけなのではないですか……?

 

どういうことです?

 

─ラップはものを包んではじめてラップになる、と仰っていましたが、

 今の話を聴くと自分たちからラップとしての命を絶っている気がするのですが。

 

まぁそうですね。

確かに、そうですね……。

あれ、ホントだ、気付かなかったな……。

 

─……。

 

……。

 

─……お互いが傷つきあう復讐なんて、もうやめておきましょう。

 

そうですね、そうかもしれません。

ちょっと会議で上の方に報告してみます。

 

 

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(戸惑うラップさん) 

 

 

─それでは話題を変えますが、ラップさんにとっての生き甲斐を教えてください。

 

生き甲斐ですか。

これには二種類あって、一つは皿をラップするとき。

このときにシワひとつなくピィーンと張れているともう、絶頂ですね。

生きてて良かった、と思います。

それと同時に、もう死んでもいい、と思います。

もう一つは、皿とかではなく、物体を直接包む時です。

お肉とか炊いた米とか野菜とか。

こちらも、物体との間に隙間がなくぴったりと寄り添うように包み込んでいると、これまた骨頂ですね。

このままずっとこうしていたい、と思います。

でも、そうはいかないんですね。

いつか剥がされてポイされてしまいます。

まあその時までの瞬間が、ラップ達の生き甲斐ですね。

 

─それでは逆に、ラップさんにとっての嫌なことを教えてください。

 

さっきも出ましたが、使わずに捨てられることが一番イヤな事ですが、それとは別にもう一つありまして。

それは何回も繰り返し使われることです。

一度や二度なら全くかまわないんです。

大事に使ってくれているな、とか、エコとかゴミ減量を意識している人なのかな、とか思って良い気分になります。

ですが、中には何十回も洗って繰り返し使って、果てには一年中使う人がいます。

そのときはもう、なんていうんでしょうか、死体をこねくり回されてる気持ちになります。

これは私、ラップ個人の想像なのですが、我々ラップは基本的に繰り返し使う事を想定されておらず、使えてもせいぜい三回くらいです。

それ以上使うと傷がついたり表面の質が荒れてきたりして、ラップ本来の機能が果たせません。

ラップ本来の機能というのは、包んで外部からの衝撃を守ったり、外気による劣化を防いだりすることです。

なので、繰り返し使われるとへとへとになってもう、許してくださいみたいな気持ちになります。

始めのうちに芽生えていた、この人エコな人、という気持ちがやがて、あれ、コイツただのケチなやつなんじゃね、って思い始めます。

もったいないのもわかりますが、新しいものに変えてください。

まだまだ使える!と思って使っているのかも知れませんが、もう使えないんです。

そして古いものをずっと使っていると、新しいラップが登場できず、消費物として循環していきません。

退職しても働き続ける高齢の老人と一緒なんです。

若い人に職場を明け渡してやってください。

そんな気持ちになります。

新しいラップは常に清潔です。

 

─ありがとうございます、確かにいますね、繰り返し使う方。

 僕なんかも何回かは使うこともありますが、気をつけたいと思います。

 

ご理解ありがとうございます。

よろしくです。

 

─それではそろそろ単発質問コーナーに入りたいと思います。

 

来いラップ!

 

─んっ?

 

質問来いラップ!

 

─ちょっとなんか、語尾に変なのついてませんか?

 

何のことラップか?

はやく質問来いラップ!

どんな質問でも受けてやるラップよ!

 

─すみませんちょっとまってください

 

……なんですか?

 

─なんで急にアニメキャラみたいな語尾になったんですか?

 

別にいいじゃないですか。

インタビューの前から考えてたんですけど今思い出したんで自然に挟んでみただけですよ。

 

─全然自然じゃないですよ不自然すぎて恐かったですよ。

 

えっ……。

 

─それでは質問です。

 ラップさんの死ぬまでに一度は包んでみたいものは?

 

生きてるものですね。

包んだ中で生命を感じてみたいです。

 

─包みたくないものは?

 

蟹です。

あのボディはムリです。

 

─尊敬するラップは?

 

倉庫で段ボール包んでるラップですね。

たくましさ120%でした。

 

─次もラップに生まれるならどんなラップがいい?

 

不透明な色付きのラップです。

ミステリアスな女に生まれたい。

 

─全世界のラップ達に一言。

 

包む事によって包まれるのです。

 

─全世界のラップ愛用者に一言。

 

ピンと張って勢いよく切る!

 

─ありがとうございました!

 

ありがとうございましたー!

 

 

 

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(くったりと気の抜けたラップさん)