2013.08.15
銃弾、草原のあなた
銃弾があなたの頭を通り過ぎる。
硬いはずの頭蓋骨を、さらに硬い真鍮がこじ開ける。
わたしはあなたの固い髪の毛を思い出す。
指先に、まだ十分に思い出せる。
目玉がこぼれそうなくらいに大きく目を開いて、あなたはゆっくりと倒れていく。
わたしと目が合った?
そんな気がするけど、きっと気のせい。
だってわたしはそこにいなかったもの。
でも、わたしは見ていた。
あなたがゆっくりと倒れていくのを、座り心地の良い一人掛けのソファに身を委ねて。
頭に生まれた暗い穴から、黒っぽい血が逃げ出してきた。
思ったとおり、あなたの血は素敵なものじゃなかった。
サバンナで追いかけられた動物が噛まれたときに最後に出すみたいな、汚くて重たい血。
乾いた風が吹いて、埃っぽい砂が舞う。
倒れるあなたの額や、手のひらや、腕や、服や靴に、おしろいみたいにやわらかくはりついた。
あなたの意識は、もうそのときには途切れているのかもしれない。
人の意識がいつ消えてしまうのかなんて、誰にもわからない。
汗をかいた体が地面に引き寄せられて張り付き、質量をもったままそこで止まった。
あなた、とはもう呼べない存在になっていた。
あなたの形をした、ただの塊。
そこからはもう覚えていないでしょうけど、あなたが死んだあとも世界は続いていたの。
固かった髪の毛は緊張が解けたみたいに急にやわらかくなる。
一つ風が吹く度に、ある種類の色だけが褪せて、やがて緑色に変わる。
それは草原になる。
かたちの整ったあなたの頭は、動物達も気に入った。
わたしが背の高い草をかきわけて歩いていると、それは遠くに見えた。
草が途切れた先で、ライオンがシマウマを追いかけている。
ほんの十秒くらい、遊ぶように走り回ったあと、シマウマの首筋に鋭い牙がめりこんだ。
そこから流れてくる血は、強くて深い赤だった。
あなたの汚れた血とは違っていたの。
白と黒の肌を、間違えた絵の具みたいに赤い血が伝っていく。
草原は太陽で褪せた緑で、空は煙たい水色で、ライオンの毛並みは油っぽい黄金だった。
その風景に、赤い光が染み出てくる。
色はもともとあったはずなのに、その赤い光によって、世界は急に色づいた。
わたしはそのとき、どうしても飲みたくなってしまったの。
サバンナを駆け回る、動物たちの血を。
(終)
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