2013.09.05

どじょうの電車

電車の床一面にどじょうが蠢いている。

足りない酸素を吸おうと必死に口をあけ、身体をねじっている。

生きている絨毯のようだ。

 

私はドアの前に立っている。

革靴とズボンを履いていたので直接肌に触れることはなかったが、小さな命の群れが生きようとしているのが膜を通して不吉に伝わってきた。

急行列車は閑散とした駅を無視し、多くの人が待つ駅を目指した。

日本ではないシステムだが、この列車は人が少ない駅に停まることはない。

停まる駅があらかじめ決まっているわけではなく、事前に管制から通知された駅の人数によって停まるかが決まる。

おかしな話だが、すべての駅に規定数を満たす人がいれば、そのすべてに停車する。

しかし、そんな状況はほぼありえない。

あるとしたら大晦日から元旦にかけての終日運転のときくらいだ。

 

 

列車がゆっくりと速度を落とす。

重力によってどじょうの絨毯が重たく波打つ。

サンダルを履いている女性がいたが、足首までどしょうの海に沈んでいた。

列車が完全に停車し、ベルとともにドアが開く。

土砂が崩壊するように、開いた部分からどじょうが外に流れ出る。

ある程度流れ終えると、待っていた人々がなるべくどじょうを踏まないように慎重に乗り込んでくる。

しかし、すべてのどじょうが流出したのではなく、まだたくさんのどじょうが床にまみれているので、どんなに気を付けても踏ん付けてしまう。

 

人々が乗り終えるとドアが閉まる。

流れて減った分のどじょうが、座席の下の部分から新たに追加される。

ホームで灼かれた人々の汗と、どじょうのぬめりで湿度が飽和する。

夏の間、これが続く。

 

 

 

 

(終)