2013.07.29

眠りの雨

二十歳の誕生日を過ぎてから、雨が降ると眠くなるようになった。

 

水分でふくらんだ雲が空を覆うと、目を開けているのに瞼を閉じているような気持ちになり、

やがて地上に雨が落ちはじめると、催眠術にかけられたようにうとうとしてしまう。

 

友達に話をしたら、「わかる、わたしもそう」と、言ってくれた。

 

 

 

誰にでもあることなのだ。

 

そう思っていた。

 

 

 

でも、二十一歳の誕生日を過ぎてから、変わってしまう。

 

雨が降ると、必ず眠ってしまうようになった。

 

雲の気配を感じたときにはすでに、夢を見はじめている。

 

降り出したときにはもう、眠りの中にいるのだ。

 

それがいつであろうと、わたしは現実の意識を失い、夢を見る。

 

家にいる時、電車に乗っているとき、授業を受けているとき、バイトをしているとき、デートをしているとき。

 

そのせいで、今ではたくさんの人や場所を失ってしまった。

 

当たり前だ。

 

晴れた日にしか働けないアルバイトなんていらないし、雨の日に授業が受けられないから卒業どころか進級さえもできないし、小雨が降っただけでデート中に眠りこけてしまう女なんて別れられて当然だった。

 

でも、晴れた日には何不自由なく暮らす事ができる。

 

雨の日に眠ってしまうなら、晴れた日にはそのぶん、何倍もパワーが出ればいいのに、と思った。

 

けれど、そんなにうまい話はないみたい。

 

 

 

ベッドから見える、まだ青い空を眺める。

 

鼓膜から、鼻の穴から、指先の毛穴から、呪文が染み入るみたいにして、眠気が流れ込んでくる。

 

また、夢を見る。

 

 

 

この病が続く限り、わたしは雨と出会う事はないのだ。

 

そう思って少し、涙をこぼした。

 

 

 

 

(終)