2013.07.11
悪い予感
神社の境内で蟻の行列を見た。
蟻は大まかな筋を作って往来していた。
ずっと見ていると蟻の数は少なくなり、その筋は薄くなった。
一匹のダンゴムシが穏やかなペースでのろのろと筋を横切る。
蚊が黒いズボンに近づいてきた。
気配を消して、スリみたいに。
風が冷たくなるにつれて、木の葉がゆれる音まで寂しくなっていく。
神社には背の高い木が何本も植わっていて、頭の上から音が流れ落ちてくる。
夏至が過ぎてまだ数日だというのに、夕方の暗さはもう夏が終わったみたいな空気だ。
梅雨さえも明けてないというのに。
十分な光はあるのに、静かで重くて、終わりがあった。
蟻の筋はほとんど見えなくなった。
まばらになった蟻は散歩をするように規則もなく歩き回る。
口で赤いなにかをくわえた蟻を見つけた。
赤をくわえた蟻は他の蟻と会話をしたあと、コンクリートの影に溶けて見えくなった。
蚊が腕の血を吸い終えた頃につぶした。
ゆっくりと叩いたが、蚊は逃げられなかった。
手のひらに血と蚊の破片がついた。
注射を蚊にしてもらえたらいいのに。
そうすれば痛くないし、刺されたことすら気付かない。
子供も泣かないだろう。
帰ろうとしたとき、逆の腕がかゆくなってきた。
別の蚊に刺されていた。
小さく腫れた部分を指先でなぞる。
ギブアンドテイクなら、気持ち良くなる薬でも残せばいいのに。
そんなことを、考えた。
悪い予感はいつまでも消えなかった。
(終)