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	<title>inner-clique &#187; 小説</title>
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	<description>内側の人々がひっそりと光る場所。</description>
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		<title>雨</title>
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		<pubDate>Sun, 02 Mar 2014 18:00:55 +0000</pubDate>
		<dc:creator>大島綾</dc:creator>
				<category><![CDATA[大島綾]]></category>
		<category><![CDATA[小説]]></category>
		<category><![CDATA[文章]]></category>
		<category><![CDATA[短編小説]]></category>

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		<description><![CDATA[雨が降っていたのは、コーヒーが出来上がるまでのわずかな時間だった。 &#160; コーヒーメーカーが呼吸を止め [...]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[
<p>雨が降っていたのは、コーヒーが出来上がるまでのわずかな時間だった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>コーヒーメーカーが呼吸を止めるように静かになった頃、窓の外に落ちる水滴の姿はもうなかった。</p>
<p>気弱な散弾のように空気を通過した雨は、地面の上でうずくまり、土の中で乾くのを待っている。</p>
<p>乾いて空に浮き上がり、また放たれるのを夢見ている。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>閉じたままの窓には、反射した私の姿が映っていた。</p>
<p>静止する飛行体みたいな丸い蛍光灯の下で、私は私と目が合わないように暗闇を見つめる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>朝までの距離はまだ遠く、でも夜の死は確実に近づいてきていた。</p>
<p>私の死もそれと同じ速度で、薄皮を剥がされるみたいに近寄ってくる。</p>
<p>それで終わりが遠ざかるわけでもないのに、私は呼吸を慎重にしてみせる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>誰かが誰かに宛てた巨大な言葉の群れが、頭の上で蠢いている。</p>
<p>私はそれを視線で拾い上げて、瞬きで消去する。</p>
<p>その言葉の群れの中に、私に必要なものは一つとして無い。</p>
<p>暗闇の中に降る雨のように、私には関係のないものばかりだった。</p>
<p>でも、私の視線は誘導弾のように意味のない言葉を発見し、拾い上げ、そして瞬きですりつぶした。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>そうやって魂は立ち止まったまま、時間だけがすり抜けていく。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>コーヒーメーカーが咳をするみたいに音を立てる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>私は窓に映る私と少し目を合わせた。</p>
<p>伸びすぎた髪が、とても不憫に思えた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>匂いが空気に混ざって、鼻先に届く。</p>
<p>角砂糖をいくつも入れて、完全に溶けるまでスプーンでかき混ぜる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>朝を想像した。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>朝の光を遮ってくれるであろう陰鬱な雲を心から祝福した。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>（終）</p>
]]></content:encoded>
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		<title>よくない事が起きている</title>
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		<pubDate>Mon, 16 Dec 2013 06:00:14 +0000</pubDate>
		<dc:creator>大島綾</dc:creator>
				<category><![CDATA[大島綾]]></category>
		<category><![CDATA[小説]]></category>
		<category><![CDATA[文章]]></category>
		<category><![CDATA[短編小説]]></category>

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		<description><![CDATA[昨晩は、何の障害物もない交差点で走っていたバイクが急に転倒したのを目にしたし、今朝は駅のエスカレーターで人が倒 [...]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[
<p>昨晩は、何の障害物もない交差点で走っていたバイクが急に転倒したのを目にしたし、今朝は駅のエスカレーターで人が倒れるのを見た。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>よくない事が起きている。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>よくない事が近づいてきているのだ、と草野は思った。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>そしてまた再び、よくない事が起ころうとしている。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>草野は図書館で、形のない時間を過ごしていた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>イギリス文学の棚からクマのプーさんを拾い、それを読んだり、眺めたり、本を閉じてみたりした。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>後方の席で、パソコンのキーボードを叩く音が聞こえる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>パソコンを使う事は禁止されていないが、その音はとても耳についた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>強すぎるタッチの音が、とても不快だった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>早くいなくなってくれないか、そう思っていたのは草野だけでなく、その場にいた他の者も同じ考えだった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>そして、草野が空気の中にそれを感じた通り、よくない事が起きる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>誰かが、キーボードを叩く音を注意した。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>その声は小さかったが、苛立ちと緊張で固くなり、とても目立った。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>注意されたキーボードの男は何かを言った後、小さいナイフを取り出した。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>草野からは見えなかったが、男が小さいナイフを取り出したのが、何故かわかった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>彼らの行動について空気が耳打ちしてくるみたいに、頭の中で容易くイメージすることができた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>草野は思う。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>きっと次の瞬間には、誰かの血が少し流れて、誰かが大きな声を出して、空気が大きく歪むだろう。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>自分に直接危害を加えられることはないが、とても大きなダメージを受けるだろう。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>見えない痣が残り、それを嗅ぎ付けてまた、別のよくない事が起こるのだ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>願うのは、それが少しでも早く消え失せていくように、というだけだ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>誰かの叫び声が聴こえて、草野は閉じていた本をまた開いた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>(終)</p>
]]></content:encoded>
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		<title>さゆりちゃんDVD</title>
		<link>http://inner-clique.org/ooshima_ryo/3994</link>
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		<pubDate>Mon, 09 Dec 2013 03:00:16 +0000</pubDate>
		<dc:creator>大島綾</dc:creator>
				<category><![CDATA[大島綾]]></category>
		<category><![CDATA[小説]]></category>
		<category><![CDATA[文章]]></category>
		<category><![CDATA[短編小説]]></category>

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		<description><![CDATA[　熱いシャワーを浴びて火照った身体に薄くて軽いパジャマを着て、春香はソファに横たわった。 　濡れた髪が不快だっ [...]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[
<p>　熱いシャワーを浴びて火照った身体に薄くて軽いパジャマを着て、春香はソファに横たわった。</p>
<p>　濡れた髪が不快だったがドライヤーで乾かすのも面倒だったので、タオルで乱暴に拭くだけで済ませた。洗濯カゴへと投げたタオルは途中で速度を落とし、床にぱたりと墜落した。</p>
<p>　春香は投げた手をしばらくぷらぷらと宙に揺らしたあと、テーブルの上に用意した金色の星のロゴのついているビールの缶を手にとる。フタを勢い良く開けて仰向けのまま頭を上げてすすると、キラリと冷えた炭酸が喉の奥へと流れこんでくる。ごくり、と音を立てて胃の中に流れて行くのを感じると、爽快なため息を吐いた。</p>
<p>　吐息に混ざったホップの匂いに心の筋肉が緩んでいく。</p>
<p>　金曜日、仕事が終わって帰宅し、化粧も落としシャワーを浴びて「やること」がすべて終わったこの瞬間、全てから解放された気分になる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　春香はもう一口ビールを飲んで、レンタルビデオ屋で借りて来たＤＶＤをプレーヤーに入れた。</p>
<p>　今回借りて来たのは『Last Angel Song (天使の歌声に魅せられて)』というタイトルの映画だった。十歳の女の子に恋をしてしまった妻子持ちの中年男の苦悩と救済を描いた物語、と書いてあった気がするが、春香にとってその内容はどうでもよかった。パッケージに描かれていたヒロインの女の子に目を奪われて、勢いで借りてしまったのだ。</p>
<p>　中央に配置された女の子はサンタクロースみたいな赤い帽子をかぶっていて、両手を広げて降り注ぐ雪みたいな光を受け止めている。</p>
<p>　女の子の顔を見たとき、春香は少しドキッとした。小学校の頃の友達にそっくりだったのだ。パッケージの女の子は金色の髪でエメラルドみたいに輝いたグリーンの瞳をしていて、その子とはまったくの別人なのに春香の頭の中では同一人物として認識された。</p>
<p>　似ている要素など一つも無いのに、その友達の名前が自然に出てきた。</p>
<p>　さゆりちゃんだ、と頭の中でつぶやいた。</p>
<p>　再生ボタンを押し、数十分の新作情報を全て観終わったあとに、本編が始まる。しかし、何かがおかしい。洋画のはずなのに日本語のナレーションが始まり、景色も日本のどこかの街だ。春香はディスクが入っていたケースを手に取って確認するが、そこにはちゃんと「洋画 『Last Angel Song〜天使の歌声に魅せられて〜』 １１８分」と書かれている。</p>
<p>　映像をしばらく観ていると、筆で書いたような書体で『深緑のみどり、紺碧のあお』というタイトルが表示された。春香がプレイヤーからディスクを取り出して確認すると、タイトルと同じ書体で『深緑のみどり、紺碧のあお』と書かれていた。間違ったディスクが入っていたのだ。春香はディスクをテーブルの上に放ってビールを半分ほど一気に飲み、再びソファに身を投げて天井を眺めた。</p>
<p>　さゆりちゃん、今なにしてるかな、元気かな、と思いながら春香は思い出す。</p>
<p>　頭の中に浮かんできたさゆりちゃんは、金色の髪でエメラルドの瞳をしていた。</p>
<p><br /><br /><br /><br />(終)</p>
]]></content:encoded>
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		<title>第三十三話　「融解4」</title>
		<link>http://inner-clique.org/shibasaki_kudan/3930</link>
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		<pubDate>Tue, 03 Dec 2013 03:00:56 +0000</pubDate>
		<dc:creator>柴崎件</dc:creator>
				<category><![CDATA[柴崎件]]></category>
		<category><![CDATA[小説]]></category>
		<category><![CDATA[文章]]></category>

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		<description><![CDATA[「一緒に寝る」 &#160; 　タンノは確認するように、口の中だけで言う。 　それは彼女に向けての質問でも疑問 [...]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[
<p>「一緒に寝る」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　タンノは確認するように、口の中だけで言う。</p>
<p>　それは彼女に向けての質問でも疑問でも、肯定でも否定でもなかった。</p>
<p>　カオリはタンノの言葉を無視し、土を掘る犬みたいにもぞもぞと掛け布団の中に入って、身体をなじませるように体勢を整える。タンノに背を向ける格好で横になると、枕にやわらかい髪の毛がさらさらと垂れるのが見えた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　タンノは指先一つ動かす事ができないまま、重力に従う彼女の後ろ髪を眺めていた。</p>
<p>　幾重にも交差して散らばる髪の毛の一本一本を視線でなぞり、そのカーブや光の反射から触り心地を想像した。</p>
<p>　撫でたらきっと、指の間を滑るように通り抜けていくだろう。</p>
<p>　瞬きをせずに見つめながら、タンノは思う。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　カオリはタンノに背を向けたまま何度か呼吸をした後、少しも動かなくなってしまった。呼吸や心臓の鼓動さえも感じられないほど、正確に静止していた。</p>
<p>　時間の無い宇宙に放り出されたみたいに、二人はどちらとも動かなくなった。タンノは微かに動くだけで、その宇宙のバランスが崩れて元に戻れないような気がしていた。</p>
<p>　タンノにはカオリが目を開けているのか閉じているのかさえもわからない。</p>
<p>　タンノは視線だけを動かして、彼女の後頭部と、テーブルのコップと、自分の指先を交互に見ていた。時間を過ごす事で目の前の状況が解決することは決してないが、自分がどのような行動をとっても間違いになるような気がした。彼女に何か声をかけることも、言葉の通りに一緒に寝る事も、ここから逃げ出すことも、どの選択肢もしてはいけない事だと思った。</p>
<p>　もしかしたら彼女に対する自分の行動に正解などないのかもしれない、とふと思い、きっとそうなのだろう、と納得した。</p>
<p>　それからタンノはどこでもない空中を眺めた。</p>
<p>　ほんの少し考えるのをやめて時間を過ごそうとおもったが、蛍光灯の音や冷蔵庫の唸りや彼女の気配や匂いが蓋の無い器官から入り込んでくるのがわかった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　どうすればいいだろう、彼女を無理矢理にでも帰せばいいのだろうか。</p>
<p>　それとも彼女の言葉の通り、一緒に寝ればいいのだろうか。</p>
<p>　彼女は、最後に、と言った。</p>
<p>　最後に、一緒に寝ない？　と。</p>
<p>　もし一緒に寝てしまったら、もう現れないのだろうか。</p>
<p>　もしそうならば、それはしてはいけない気がする。</p>
<p>　きっとこの世界では、俺にとって彼女の存在が必要なのだ。</p>
<p>　この世界での俺を支えてくれていた唯一の人物なのだ。</p>
<p>　いなくなられたら、多分、俺は一人になってしまう。</p>
<p>　元の世界とこの世界との明らかな差異である彼女の存在が、俺の存在を明確にしてくれる。</p>
<p>　この世界の住人ではないということを証明し続けなければ、俺はきっとこの世界になじんでしまう。そして、この世界で生きる事が本当の人生になってしまうだろう。</p>
<p>　だから、それを防ぐ為にも、彼女が必要なのだ。</p>
<p>　でも、だからと言って、今の俺に何ができるのだろう。</p>
<p>　何をするのが正しいのだろう。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　空中に散らばる蛍光灯の光を眺めながらタンノは考えたが、答えはどこにも見つからなかった。</p>
<p>　いつの間にか丸くなっていた背中を正そうとしたとき、ねじを巻かれたみたいに急にカオリが顔をこちらに向けた。</p>
<p>　タンノは小さく驚いて、カオリに目を合わせる。</p>
<p>　カオリは太陽が沈むみたいな遅さで、ゆっくりと瞬きをした。</p>
<p>　長い瞬きの間、タンノの周りから音が消えていた。</p>
<p>　瞬きを終えて眠りから覚めたように目を開くと、彼女は少し笑いながら枕に頭を軽く擦り付けて言う。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「タンノ君の匂いだ」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　花の匂いを嗅ぐみたいに、カオリはタンノの匂いを鼻の奥や肺の中に取り込んだ。</p>
<p>　薄い笑顔を保ったまま、カオリは震える声で言った。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「わたし、タンノ君のこと、ほんとうに好きだったんだよ」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　喉が震えて、笑った瞳から大粒の雫がこぼれ落ちる。</p>
<p>　タンノは彼女の濡れた視線と目を合わせながら息を飲んだ。</p>
<p>　カオリは隠れるように布団をかぶり、身体を震わせた。</p>
<p>　タンノの探していた答が、彼女の涙によって導かれた気がした。</p>
<p>　タンノは考えるのをやめて、彼女の隣に潜り込み、微かな力で抱きしめた。</p>
<p>　腕に、彼女の骨がやわらかくぶつかる。</p>
<p>　鼻先にある髪の毛からカオリの匂いが頭の奥に広がると、これで良かったのだ、とタンノは思った。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　いつまでも続く涙とささやかな嗚咽を胸に感じながら、壊れてしまわないように、タンノは彼女をただ柔らかく抱きしめていた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>(続)</p>
]]></content:encoded>
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		</item>
		<item>
		<title>寒い日に、自殺はしたくない。</title>
		<link>http://inner-clique.org/ooshima_ryo/3920</link>
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		<pubDate>Mon, 02 Dec 2013 03:00:12 +0000</pubDate>
		<dc:creator>大島綾</dc:creator>
				<category><![CDATA[大島綾]]></category>
		<category><![CDATA[小説]]></category>
		<category><![CDATA[文章]]></category>
		<category><![CDATA[短編小説]]></category>

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		<description><![CDATA[会社に向かう為に、家を出る。 時間は午前七時五十分。 晴れてるのに空は薄い色をしていて、まだ低い太陽からは棘の [...]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[
<p>会社に向かう為に、家を出る。</p>
<p>時間は午前七時五十分。</p>
<p>晴れてるのに空は薄い色をしていて、まだ低い太陽からは棘のような光が伸びる。</p>
<p>冷たくなった地面と凍るような空気の中を、固い靴底で歩いていく。</p>
<p>駅前にそびえ立つマンションに日射しがぶつかって、それがいつも眩しい。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>私の視線は、その淡いオレンジ色に輝く壁をのぼって、屋上でぴたりと止まる。</p>
<p>私は、そこに立つ誰かを描く。</p>
<p>その誰かは、自殺をしようとしている。</p>
<p>逃げられない何かから逃げる為に、飛び降りて、死のうとしている。</p>
<p>死んで、個人的な終わりを迎えようとしている。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>私はその人を詳細に描く。</p>
<p>描けば描くほど、彼の身体に厳しい寒さが響いてくる。</p>
<p>上空に近いそこは、きっと風が強いだろう。</p>
<p>コンクリートの建物には、ぬくもりなどないだろう。</p>
<p>手や足がかじかんで、はやく暖かいところに行きたいと思うだろう。</p>
<p>足元の先に広がる死の恐怖や、ついに得られる解放感や安堵も、寒さでそれどころではないはずだ。</p>
<p>感情よりも感覚の方が、素直で、直接的で、自立している。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>一歩を踏み出せば、それで終わるのに。</p>
<p>ようやくこの状況まで足を運べたのに。</p>
<p>いろいろな決心をして、絶望をして、希望を捨てて、ここまで来たのに。</p>
<p>こんなに寒いなんて。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>恐怖のせいなのか寒さのせいなのかわからないまま、足が震える。</p>
<p>イメージしていた景色と違っていた。</p>
<p>もっと落ち着いた心で、迷惑をかけた人々に心から謝罪をしたり、力になってくれた人全員に心から感謝をしたり、ここまで自分を追いつめた物事すべてを憎んだり、そうやって、全身全霊で何かを思っているはずだった。</p>
<p>それなのに頭のなかは、寒い、の一言でいっぱいになる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>私はもうすぐ、屋上から視線を外す。</p>
<p>彼は震えたまま、いつまでも飛び降りずにいる。</p>
<p>駅が近づいて、マンションが視界から消えてしまう。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>私は改札を抜けて、ホームに立ち、電車を待つ。</p>
<p>一分もしないうちに電車はやってきて、まだ隙間のある車内に身を収める。</p>
<p>電車が走り出し、体が揺れる。</p>
<p>歩いて発生した体の熱と空調のせいで、額や脇が汗ばんでくる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>ほんのひとときだけ、窓の外にマンションが見える。</p>
<p>そこにはもう、彼はいない。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>私にはいつもわからなかった。</p>
<p>彼が飛び降りたのか、それとも飛び降りるのをやめたのか。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>いつも、わからなかった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>(終)</p>
<p>&nbsp;</p>
]]></content:encoded>
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		</item>
		<item>
		<title>第三十二話　「融解3」</title>
		<link>http://inner-clique.org/shibasaki_kudan/3787</link>
		<comments>http://inner-clique.org/shibasaki_kudan/3787#comments</comments>
		<pubDate>Tue, 26 Nov 2013 03:00:52 +0000</pubDate>
		<dc:creator>柴崎件</dc:creator>
				<category><![CDATA[柴崎件]]></category>
		<category><![CDATA[小説]]></category>
		<category><![CDATA[文章]]></category>

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		<description><![CDATA[&#160; 　カオリの放った言葉が周りの空気を奪っていくみたいに、タンノの呼吸はほんの少し停止した。 　喉の [...]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[
<p>&nbsp;</p>
<p>　カオリの放った言葉が周りの空気を奪っていくみたいに、タンノの呼吸はほんの少し停止した。</p>
<p>　喉の奥が干上がるように乾いてしまい、タンノはなけなしの空気とともに唾を飲み込む。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「そうなのか」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　否定をするか、さらに質問を重ねるか、短い時間の中で迷った末、一度受け入れる事にした。</p>
<p>　彼女の言葉だけが、この世界での自分を示している。</p>
<p>　タンノはそう思って、咀嚼するように頷いてみせた。</p>
<p>　カオリは記憶の中の物語を読み上げるみたいに、坦々と話し始めた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「半年くらい前に、わたしとタンノ君は出会った。あなたはとても酔っ払っていて、道ばたで眠っていたの。わたしはそれを家に帰る途中に見つけて、声をかけた。まだ冬だったから、放っておいたら死んじゃうと思って。そうしたら、タンノ君はわたしの肩を掴んで急に泣き出して、わたしはやばいなと思ったけど、放っておけなかったから、どうしたんですかって聞いたら、好きだった人が忘れられないとか、親友に奪われたとか、絶対に俺の方が好きだったとか、こんなの間違ってるとか、そんな風に、何年も前のことをいつまでも女々しくこぼしてた。本当に、こんな情けない年上の人を見たのは初めてだと思った」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　身に覚えのない濡れ衣を着せられた気がして反論したかったが、タンノは口をつぐんでその続きを待った。それに、元の世界では酔っ払って道で寝るなどありえないことだったが、この世界の自分なら、もしかしたらしてしまうかもしれないと思えた。</p>
<p>　タンノは少しずつ、この現実での自分を理解し始めていた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「それで、その場で愚痴を聞いていたけどいつまでも話が終わらなくて、わたしも寒くて帰りたかったから、タンノ君の家まで送る事にしたの。家に向かう間も、あなたはわたしの手を握って、いつまでも彼女のことについて話していた。最低な気分だった、声なんかかけるんじゃないと思った、すっごくお酒臭かったし、でも、見殺しにして死なれるよりはいいかと思って、それでタンノ君の家まで行ったの」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　カオリはそこで言葉を区切った。</p>
<p>　支えていた子供の自転車から手を離すように、あとは自分で漕ぎなさいというように。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「そこで、僕は君を襲ったのか」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　罪を認めるようにタンノは言う。</p>
<p>　もちろん、そんなことはしていないし、するはずもない。しかし、この世界での彼を理解すればするほど、痛いほどその心の動きを感じることができた。自棄になって酒に溺れたり誰かを襲ったりすることなど、この世界では容易にできてしまえるように思えた。</p>
<p>　カオリからの返答が無いまま短い沈黙が生まれて、タンノは彼女に目を向ける。</p>
<p>　カオリは諦めたように目を細くして、タンノを見ていた。視線を逸らす事なく、カオリは小さく首を横に振った。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「襲ってなんかいない。襲ったなんて、噓。タンノ君は一人で部屋に入っていったし、わたしは部屋には入らなかった。帰るときに、後で礼をさせてくれって言われて、連絡先を交換しただけ。それで、終わり」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　カオリは息を一つ吐いて、肩を落とす。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「何も覚えてないなんて言うから、どうしようもない噓を吐いて、責めてやろうと思っただけ」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　カオリがそう言うと、つられるようにタンノも肩を落とし、何も言わずに視線を下げた。</p>
<p>　テーブルの上にオブジェのように置かれたアイスコーヒーの氷はほとんど形をなくして、グラスの中に透明な液体の層を作っていた。底に水滴が溜まって、小さな水たまりができている。</p>
<p>　コースターを買おうとしていつも忘れてしまうのを思い出した。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「とにかく、それが、僕と君との出会いだったんだね。それから……」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　タンノの言葉を遮って、カオリが喋りだす。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「それから何回か会ってデートするようになって、わたしはタンノ君を好きになってタンノ君もわたしのことを好きって言ってくれて、付き合おうってわたしが言ったけど彼女のことが忘れられないって言われて、じゃあ忘れるまで待つって言って待ってたのに、あなたはわたしのことなんか全部忘れてしまったの。ねえ、ひどい話だと思わない？」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ほんとうにひどい、と言って、子供が愚図るように、カオリは声を震わせる。</p>
<p>　ほんとうに、ひどい話だ。</p>
<p>　タンノは心の中で同意した。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「わたしはもう、必要ないのかな」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　独り言のように言うカオリに、わからない、と心の中で言いながらタンノは首を振った。</p>
<p>　カオリは小さな動作でゆっくりと立ち上がって、ベッドに腰掛ける。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「最後に、一緒に寝ない？」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　タンノの目の前に投げ出された正しく折り目のついたスカートから伸びる二本の脚が、見た事のない生き物のように思えた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>(続)</p>
]]></content:encoded>
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		<title>いいないいな</title>
		<link>http://inner-clique.org/ooshima_ryo/3783</link>
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		<pubDate>Mon, 25 Nov 2013 03:00:03 +0000</pubDate>
		<dc:creator>大島綾</dc:creator>
				<category><![CDATA[大島綾]]></category>
		<category><![CDATA[小説]]></category>
		<category><![CDATA[文章]]></category>
		<category><![CDATA[短編小説]]></category>

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		<description><![CDATA[&#160; 消しゴムっていいな。 &#160; &#160; 消せるから、いいな。 &#160; &#038;nbsp [...]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[
<p>&nbsp;</p>
<p>消しゴムっていいな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>消せるから、いいな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>ボールペンっていいな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>消えないから、いいな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>どっちも、いいな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>でも、消せない消しゴムは、いやだな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>消えちゃうボールペンは、いやだな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>ぼくはどうかな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>ぼくは、いいかな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>それとも、いやかな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>決めるのはだれかな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>お母さんかな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>もうそろそろ、帰ってくるかな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>帰ってきたら決めてもらおう。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>帰ってきたら、おかえりって言おう。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><br /></p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>(終)</p>
]]></content:encoded>
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		<title>第三十一話　「融解2」</title>
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		<pubDate>Tue, 19 Nov 2013 03:00:33 +0000</pubDate>
		<dc:creator>柴崎件</dc:creator>
				<category><![CDATA[柴崎件]]></category>
		<category><![CDATA[小説]]></category>
		<category><![CDATA[文章]]></category>

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		<description><![CDATA[　カオリの瞳から落下した涙は、どこか見えないところに消えていってしまった。　タンノは否定の意味を込めた沈黙を置 [...]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[
<p>　カオリの瞳から落下した涙は、どこか見えないところに消えていってしまった。<br />　タンノは否定の意味を込めた沈黙を置いて、カオリの縒れた制服の胸のあたりをぼんやりと眺めた。心臓や呼吸で、彼女の身体がかすかに揺れているのがわかった。</p>
<p>　カオリは手を当てて鼻を啜り、はあっと息を吐く。</p>
<p>　空中を見つめる目は、溶けかけたビー玉のように見えた。</p>
<p>　唾をひとつ飲み込んでから、カオリは言う。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「ねえ、もしかして、その私のいない世界では、タンノ君は佐野真由美さんとうまくやっていたの？」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　カオリの口から出て来た恋人の名前に、タンノの心臓は固まった。</p>
<p>　タンノが咄嗟にカオリの顔を見ると、彼女の眉はきつく寄せられていた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「どうしてその人の名前を知ってるんだ……？」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　タンノは何も想像する間もなく、カオリに質問していた。</p>
<p>　カオリはそれに応えず、まっすぐにタンノを見据えたまま質問を重ねる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「ねえ、いいから答えて、そうなの？　佐野真由美さんと、恋人同士だったりしたの？」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　カオリは唇を小さく噛む。その表情は悲しみに満ちていたが、タンノにはその悲しみがどこからくるものなのか、少しもわからなかった。</p>
<p><br />「佐野真由美さんとは、恋人同士だったよ。今でも付き合っていて、きっと、俺が元の世界に戻るのを待っている」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　一つずつ言葉を置いていくように、タンノは慎重に話した。カオリは視線を落とし、タンノの言葉をすりつぶすように奥歯で歯ぎしりをする。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「またそんなこと言ってるの？」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「また？」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　またってどういう意味だ？　とタンノは心の中で訊く。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「佐野真由美さんはもう、アオキさんのものなんでしょ？　高校の時からずっと付き合ってるんでしょう？　タンノ君が言ってたんじゃない。大好きだけど、忘れなきゃ、諦めなきゃって。それなのに、記憶をなくしたとか、別の世界から来たとか噓まで吐いて、まだ幻を見ようとしてる。ねえ、どうしたら忘れてくれるの？　どうやったら諦めがつくの？　わたしはいつまで待てばいいの？」</p>
<p><br />　カオリは背中を丸めて俯いた。歪なカーブを描いた肩が、小さく震えている。</p>
<p>　タンノは彼女の短く垂れた髪を見ながら、何を言うべきか考えた。目の前で泣いている少女は明らかに傷ついていた。タンノが放つ一つ一つの言葉に血を流しているのがわかった。彼女の言葉とこの世界の状況をつなぎ合わせなくてはいけない、とタンノは思った。</p>
<p><br /><br />　確かに彼女の言う通り、高校時代から真由美とアオキが付き合っていたら、俺は何年経っても真由美を諦めたり忘れたりすることはできなかっただろう。それほど想いを寄せていたし、真由美を欲していた。だからこの世界の俺は、彼らを避けて過ごしていたのだ。今でも二人が付き合っているところを想像してみただけで、腹の中にどす黒い渦がすぐに出来上がる。</p>
<p>　時には真由美と付き合っている夢を見たり想像をしたりして、自分を偽ろうとすることもあるかもしれない。記憶を失ったふりをしたり、あるいは別の世界から来たふりをして、真由美とアオキが恋人同士であるこの世界をすべて否定したかもしれない。</p>
<p>　この世界の俺は、きっとそうやって過ごしてきていたのだ。</p>
<p>　二人が付き合うというのは俺にとって、それだけ衝撃的で絶望的な事なのだ。</p>
<p>　その部分については、なんとなく把握できる気がする。この世界で俺がどうやって過ごしていたのかは、少し感じ取れる。</p>
<p>　しかし、わからないのは目の前で肩を震わせる少女の存在だ。女子高校生と出会うきっかけなど、今までの人生では一つもなかった。それも真由美とアオキが付き合った衝撃の余波だろうか。自棄になってナンパでもしたりしたのだろうか。それはあまり想像がつかない。</p>
<p>　こればかりは、訊いてみないとわかりそうにない。</p>
<p><br /><br />　タンノはいつの間にか手元に落としていた視線をくいっと持ち上げて、カオリに目を向けた。彼女の顔はまだ俯いたままで、タンノからは表情がよく見えなかった。</p>
<p><br />「エンドウカオリさん、僕と君はどこで出会ったのか、どういう関係なのか、教えてくれないか」</p>
<p><br />　小さい針で刺されたみたいに、カオリの身体がピクリと動く。ゆっくりと顔を持ち上げて、少し疲れた目でタンノを見る。</p>
<p><br />「覚えてないなんて言わせないわよ」</p>
<p><br />　責めるようにカオリが言う。</p>
<p><br />「頼むから、教えてくれ」</p>
<p><br />　タンノは怯まずに応じた。まっすぐな目でカオリを見る。フェンシングの切っ先を重ねるみたいに、カオリも視線を伸ばす。</p>
<p><br />「タンノ君、私を襲ったのよ」</p>
<p><br />　視線とともに、カオリはタンノに言葉を突き刺した。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>(続)</p>
]]></content:encoded>
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		<title>分銅</title>
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		<pubDate>Mon, 18 Nov 2013 04:00:11 +0000</pubDate>
		<dc:creator>大島綾</dc:creator>
				<category><![CDATA[大島綾]]></category>
		<category><![CDATA[小説]]></category>
		<category><![CDATA[文章]]></category>
		<category><![CDATA[短編小説]]></category>

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		<description><![CDATA[　田島の心に、分銅がゆっくりと沈み込む。 　着地した分銅は、心の底とくっついてしまったみたいに隙間なく触れあう [...]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[
<p>　田島の心に、分銅がゆっくりと沈み込む。</p>
<p>　着地した分銅は、心の底とくっついてしまったみたいに隙間なく触れあう。</p>
<p>　触れあいながらも、その重さはぎいぎいとのしかかる。</p>
<p>　地中に棲む巨大なミミズがいびきをかいてるような低い音が、心の底のさらに奥の方から聞こえる。</p>
<p>　それは単純な重い耳鳴りかもしれない。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　田島はてりやきバーガーを食べてオニオンスープを飲み干すと、店内に流れるクリスマスソングに耳を預けた。一つの曲が終わり、また次のクリスマスソングが流れる。普段なら気付かないうちに心が浮かれてしまう音楽も、今日に限っては田島の中の淀みをさらに混沌とさせるだけだった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　天気は文句の付けようのないほどの快晴で、久しぶりに食べたてりやきバーガーも初めて注文したオニオンスープも旨く、まだ正午前で一日の猶予がたっぷりとあるというのに、どうしても心の分銅はなくならない。それどころか、大小様々な分銅がピンセットで次々に置かれていった。</p>
<p>　田島の心には天秤も受け皿もなく、分銅はただ底に溜まっていくだけだった。濃すぎるどす黒いコーヒーが少しずつ流し込まれるみたいに、分銅は心の中にずしずしと溜まり、もたれてくる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　そんなイメージを捉えてしまうと、田島は本当に気分が悪くなってきてしまった。</p>
<p>　まだ消化していないてりやきバーガーとオニオンスープが嵐の海の荒波に揉まれるみたいに、胃の中でぐるぐると舞っている。これほど前触れも無く急激に気分が悪くなるのは、人生で初めての事だった。</p>
<p>　大声を出したり肉体的な運動をすることで、原因であるはずの分銅を霧散してしまいたかった。しかし、田島は胃の中の物が喉まで登り上がってくるのを察して、トイレに駆け込んだ。</p>
<p>　便器に顔を近づけて喉の奥から絞り出すような格好で、形を無くしたてりやきバーガーとスープを吐き出した。そのとき、何かがひっかかったみたいな痛みが喉に走った。</p>
<p>　未消化の食べ物と一緒に分銅が出て来た。便器にぶつかって、こつん、という音を鳴らす。</p>
<p>　短い呼吸をしながら唾を飲み込むと、胃液のすっぱさと一緒に血の味を感じた。分銅を吐き出すときに、喉が切れてしまったのだ。口の中を切ったボクサーみたいに、田島はごくりごくりと血を飲み込む。</p>
<p>　鉄の味と血の味は似ている、田島がそう思うと、心の底に溜まっていた分銅はどろりとした血液に変化し、心の中でゆらゆらと浮遊し始めた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　やがて分銅だった血液は滲むように薄くなり、暗い心の底で散っていった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p> <br /><br /></p>
<p>&nbsp;</p>
<p>(終)</p>
]]></content:encoded>
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		<title>余命一日の夢</title>
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		<pubDate>Thu, 14 Nov 2013 06:00:49 +0000</pubDate>
		<dc:creator>大島綾</dc:creator>
				<category><![CDATA[大島綾]]></category>
		<category><![CDATA[小説]]></category>
		<category><![CDATA[文章]]></category>
		<category><![CDATA[短編小説]]></category>

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		<description><![CDATA[　ついにこの日が来てしまった、と目覚めたばかりの重い頭で健太は思う。 &#160; 　今日は医者から宣告された [...]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[
<p>　ついにこの日が来てしまった、と目覚めたばかりの重い頭で健太は思う。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　今日は医者から宣告された、余命最後の日だった。頭の中にある腫瘍が増殖して、どこかの機能が蝕まれて死んでしまうらしい。頭の中のどの部分にそれがあるのか、医者は詳しく教えてくれなかった。健太自身、頭や身体に痛みや変化などの症状を感じておらず、外から見ても健康的な普通の少年だった。それでも医者が言うには、健太の命は今日までとのことだった。日常生活に支障がないということもあり、健太の希望で最期の日まで自宅で過ごすことにしていた。</p>
<p><br />　普段と変わらない生活をしているのに、余命が着実に短くなっていく。昨日までは本当に自分が死んでしまうのか信じられないままで、ずっと現実味がなかった。しかし今朝ベッドの上で目を覚ましてから、死への不安や恐怖が堰を切ったように胸のあたりに溢れてきた。</p>
<p><br />　健太は一緒に寝ていた犬を抱きしめて、胸の中で撫で回した。今日で俺はいなくなる、会えなくなっちゃうんだよ、わかるか、と言いながら涙をこぼした。犬は首を傾げて健太を不思議そうに見つめ、傷口を舐めるみたいに涙を舌で拭った。</p>
<p>　わからないよな、俺は死ぬんだよ、死んじゃうんだよ、でも、わからないよな、きっと、と言って犬の身体に顔を擦り付けると、滑らかな黄金の毛が健太の涙を吸い込んでいった。</p>
<p><br />　こいつはいつ、俺の死に気付くのだろう、と健太は思う。きっと死というものはわからないだろうから、この日を境にただいなくなって、ずっと帰って来ないままで、それで、いつ俺が死んだということを把握するのだろうか。こいつ自身が死ぬときに、そういえばあの人はあの日以来姿を見せなかったな、と思うだけなのだろうか。きょとんとした犬の顔を見ていると、死を伝えられない悲しさが水脈を掘り当てたみたいに滾々と溢れ続けた。</p>
<p><br />　医者の宣告では、命は今日までということだったが、今日のいつなのだろうか。そして、どのようにして死が訪れるのだろうか。悲しさが恐怖と混ざり合って、喉のあたりがぐるぐると震えた。</p>
<p><br />　健太は犬を抱いたままリビングに行き、病院に行きたいということを母親に伝えた。涙で崩れた健太の顔を見ても、母親は動じることはなかった。</p>
<p><br />　あら、どうしたの、最期まで家のベッドで眠りたいって言ってたじゃないの、どうしたの、と母親は言う。健太が、どのように死ぬのか分からず恐いのだ、と言うと、そうね、と言って母親は納得した。</p>
<p><br />　病院に電話してみるね、と言って母親が部屋を出ると、健太は犬を抱えたまま一人になった。今日死ぬ、死にたくない、死ぬ、死にたくない、今日のいつ、どんな風に死ぬのだろう、死にたくない、こわい、死にたくない、と頭の中で叫びながら犬を強く抱きしめた。強く目をつぶって涙を絞り出し、薄目を開けて母親を待った。待っている間に、その部屋が自宅のリビングと全くの違うことに気付き、今いる世界が夢であることに気が付いた。</p>
<p><br />　健太は現実の自分に向けて呼びかける。夢だ、目を覚ますんだ、死ななくて済むんだ、身体を動かせ、起きろ、目を覚ませ、良かった、本当によかった、起きろ、目を覚ませ。</p>
<p>　<br />　<br /><br /></p>
<p>　結露した窓の向こうに白い空が見えた。時間が現実的に流れているのを感じたとき、良かった、夢だった、と健太はぼんやりと安心した。少しの間、窓の外の白色を眺めながら、夢の内容を丁寧に思い出して頭の中に記憶した。足元でまだ眠っている犬を両手で持ち上げて、抱き枕みたいに抱きしめる。眠りの途中だった犬は迷惑そうに大きなあくびをして見せた。健太は犬のお腹に自分の鼻を押し当てて匂いを嗅ぎ、よかった、ともう一度思った。</p>
<p><br />　でも、と健太は思う。</p>
<p><br />　悲しかった、死ぬ事よりも、死をわかってもらえないままいなくなる事の方が、どんなに寂しくて悲しいことか、思い知った、今まで、想像もしなかった、今までよりも少しだけ、大切に生きていこう、少なくとも、こいつが死んでしまうまでは。</p>
<p><br />　そう思いながら、健太は犬を抱いたまま再び眠りについた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>(終)</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
]]></content:encoded>
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