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	<title>inner-clique &#187; 大島綾</title>
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	<description>内側の人々がひっそりと光る場所。</description>
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		<title>雨</title>
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		<pubDate>Sun, 02 Mar 2014 18:00:55 +0000</pubDate>
		<dc:creator>大島綾</dc:creator>
				<category><![CDATA[大島綾]]></category>
		<category><![CDATA[小説]]></category>
		<category><![CDATA[文章]]></category>
		<category><![CDATA[短編小説]]></category>

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		<description><![CDATA[雨が降っていたのは、コーヒーが出来上がるまでのわずかな時間だった。 &#160; コーヒーメーカーが呼吸を止め [...]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[
<p>雨が降っていたのは、コーヒーが出来上がるまでのわずかな時間だった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>コーヒーメーカーが呼吸を止めるように静かになった頃、窓の外に落ちる水滴の姿はもうなかった。</p>
<p>気弱な散弾のように空気を通過した雨は、地面の上でうずくまり、土の中で乾くのを待っている。</p>
<p>乾いて空に浮き上がり、また放たれるのを夢見ている。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>閉じたままの窓には、反射した私の姿が映っていた。</p>
<p>静止する飛行体みたいな丸い蛍光灯の下で、私は私と目が合わないように暗闇を見つめる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>朝までの距離はまだ遠く、でも夜の死は確実に近づいてきていた。</p>
<p>私の死もそれと同じ速度で、薄皮を剥がされるみたいに近寄ってくる。</p>
<p>それで終わりが遠ざかるわけでもないのに、私は呼吸を慎重にしてみせる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>誰かが誰かに宛てた巨大な言葉の群れが、頭の上で蠢いている。</p>
<p>私はそれを視線で拾い上げて、瞬きで消去する。</p>
<p>その言葉の群れの中に、私に必要なものは一つとして無い。</p>
<p>暗闇の中に降る雨のように、私には関係のないものばかりだった。</p>
<p>でも、私の視線は誘導弾のように意味のない言葉を発見し、拾い上げ、そして瞬きですりつぶした。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>そうやって魂は立ち止まったまま、時間だけがすり抜けていく。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>コーヒーメーカーが咳をするみたいに音を立てる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>私は窓に映る私と少し目を合わせた。</p>
<p>伸びすぎた髪が、とても不憫に思えた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>匂いが空気に混ざって、鼻先に届く。</p>
<p>角砂糖をいくつも入れて、完全に溶けるまでスプーンでかき混ぜる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>朝を想像した。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>朝の光を遮ってくれるであろう陰鬱な雲を心から祝福した。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>（終）</p>
]]></content:encoded>
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		</item>
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		<title>よくない事が起きている</title>
		<link>http://inner-clique.org/ooshima_ryo/4096</link>
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		<pubDate>Mon, 16 Dec 2013 06:00:14 +0000</pubDate>
		<dc:creator>大島綾</dc:creator>
				<category><![CDATA[大島綾]]></category>
		<category><![CDATA[小説]]></category>
		<category><![CDATA[文章]]></category>
		<category><![CDATA[短編小説]]></category>

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		<description><![CDATA[昨晩は、何の障害物もない交差点で走っていたバイクが急に転倒したのを目にしたし、今朝は駅のエスカレーターで人が倒 [...]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[
<p>昨晩は、何の障害物もない交差点で走っていたバイクが急に転倒したのを目にしたし、今朝は駅のエスカレーターで人が倒れるのを見た。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>よくない事が起きている。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>よくない事が近づいてきているのだ、と草野は思った。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>そしてまた再び、よくない事が起ころうとしている。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>草野は図書館で、形のない時間を過ごしていた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>イギリス文学の棚からクマのプーさんを拾い、それを読んだり、眺めたり、本を閉じてみたりした。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>後方の席で、パソコンのキーボードを叩く音が聞こえる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>パソコンを使う事は禁止されていないが、その音はとても耳についた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>強すぎるタッチの音が、とても不快だった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>早くいなくなってくれないか、そう思っていたのは草野だけでなく、その場にいた他の者も同じ考えだった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>そして、草野が空気の中にそれを感じた通り、よくない事が起きる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>誰かが、キーボードを叩く音を注意した。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>その声は小さかったが、苛立ちと緊張で固くなり、とても目立った。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>注意されたキーボードの男は何かを言った後、小さいナイフを取り出した。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>草野からは見えなかったが、男が小さいナイフを取り出したのが、何故かわかった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>彼らの行動について空気が耳打ちしてくるみたいに、頭の中で容易くイメージすることができた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>草野は思う。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>きっと次の瞬間には、誰かの血が少し流れて、誰かが大きな声を出して、空気が大きく歪むだろう。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>自分に直接危害を加えられることはないが、とても大きなダメージを受けるだろう。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>見えない痣が残り、それを嗅ぎ付けてまた、別のよくない事が起こるのだ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>願うのは、それが少しでも早く消え失せていくように、というだけだ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>誰かの叫び声が聴こえて、草野は閉じていた本をまた開いた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>(終)</p>
]]></content:encoded>
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		</item>
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		<title>さゆりちゃんDVD</title>
		<link>http://inner-clique.org/ooshima_ryo/3994</link>
		<comments>http://inner-clique.org/ooshima_ryo/3994#comments</comments>
		<pubDate>Mon, 09 Dec 2013 03:00:16 +0000</pubDate>
		<dc:creator>大島綾</dc:creator>
				<category><![CDATA[大島綾]]></category>
		<category><![CDATA[小説]]></category>
		<category><![CDATA[文章]]></category>
		<category><![CDATA[短編小説]]></category>

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		<description><![CDATA[　熱いシャワーを浴びて火照った身体に薄くて軽いパジャマを着て、春香はソファに横たわった。 　濡れた髪が不快だっ [...]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[
<p>　熱いシャワーを浴びて火照った身体に薄くて軽いパジャマを着て、春香はソファに横たわった。</p>
<p>　濡れた髪が不快だったがドライヤーで乾かすのも面倒だったので、タオルで乱暴に拭くだけで済ませた。洗濯カゴへと投げたタオルは途中で速度を落とし、床にぱたりと墜落した。</p>
<p>　春香は投げた手をしばらくぷらぷらと宙に揺らしたあと、テーブルの上に用意した金色の星のロゴのついているビールの缶を手にとる。フタを勢い良く開けて仰向けのまま頭を上げてすすると、キラリと冷えた炭酸が喉の奥へと流れこんでくる。ごくり、と音を立てて胃の中に流れて行くのを感じると、爽快なため息を吐いた。</p>
<p>　吐息に混ざったホップの匂いに心の筋肉が緩んでいく。</p>
<p>　金曜日、仕事が終わって帰宅し、化粧も落としシャワーを浴びて「やること」がすべて終わったこの瞬間、全てから解放された気分になる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　春香はもう一口ビールを飲んで、レンタルビデオ屋で借りて来たＤＶＤをプレーヤーに入れた。</p>
<p>　今回借りて来たのは『Last Angel Song (天使の歌声に魅せられて)』というタイトルの映画だった。十歳の女の子に恋をしてしまった妻子持ちの中年男の苦悩と救済を描いた物語、と書いてあった気がするが、春香にとってその内容はどうでもよかった。パッケージに描かれていたヒロインの女の子に目を奪われて、勢いで借りてしまったのだ。</p>
<p>　中央に配置された女の子はサンタクロースみたいな赤い帽子をかぶっていて、両手を広げて降り注ぐ雪みたいな光を受け止めている。</p>
<p>　女の子の顔を見たとき、春香は少しドキッとした。小学校の頃の友達にそっくりだったのだ。パッケージの女の子は金色の髪でエメラルドみたいに輝いたグリーンの瞳をしていて、その子とはまったくの別人なのに春香の頭の中では同一人物として認識された。</p>
<p>　似ている要素など一つも無いのに、その友達の名前が自然に出てきた。</p>
<p>　さゆりちゃんだ、と頭の中でつぶやいた。</p>
<p>　再生ボタンを押し、数十分の新作情報を全て観終わったあとに、本編が始まる。しかし、何かがおかしい。洋画のはずなのに日本語のナレーションが始まり、景色も日本のどこかの街だ。春香はディスクが入っていたケースを手に取って確認するが、そこにはちゃんと「洋画 『Last Angel Song〜天使の歌声に魅せられて〜』 １１８分」と書かれている。</p>
<p>　映像をしばらく観ていると、筆で書いたような書体で『深緑のみどり、紺碧のあお』というタイトルが表示された。春香がプレイヤーからディスクを取り出して確認すると、タイトルと同じ書体で『深緑のみどり、紺碧のあお』と書かれていた。間違ったディスクが入っていたのだ。春香はディスクをテーブルの上に放ってビールを半分ほど一気に飲み、再びソファに身を投げて天井を眺めた。</p>
<p>　さゆりちゃん、今なにしてるかな、元気かな、と思いながら春香は思い出す。</p>
<p>　頭の中に浮かんできたさゆりちゃんは、金色の髪でエメラルドの瞳をしていた。</p>
<p><br /><br /><br /><br />(終)</p>
]]></content:encoded>
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		</item>
		<item>
		<title>寒い日に、自殺はしたくない。</title>
		<link>http://inner-clique.org/ooshima_ryo/3920</link>
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		<pubDate>Mon, 02 Dec 2013 03:00:12 +0000</pubDate>
		<dc:creator>大島綾</dc:creator>
				<category><![CDATA[大島綾]]></category>
		<category><![CDATA[小説]]></category>
		<category><![CDATA[文章]]></category>
		<category><![CDATA[短編小説]]></category>

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		<description><![CDATA[会社に向かう為に、家を出る。 時間は午前七時五十分。 晴れてるのに空は薄い色をしていて、まだ低い太陽からは棘の [...]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[
<p>会社に向かう為に、家を出る。</p>
<p>時間は午前七時五十分。</p>
<p>晴れてるのに空は薄い色をしていて、まだ低い太陽からは棘のような光が伸びる。</p>
<p>冷たくなった地面と凍るような空気の中を、固い靴底で歩いていく。</p>
<p>駅前にそびえ立つマンションに日射しがぶつかって、それがいつも眩しい。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>私の視線は、その淡いオレンジ色に輝く壁をのぼって、屋上でぴたりと止まる。</p>
<p>私は、そこに立つ誰かを描く。</p>
<p>その誰かは、自殺をしようとしている。</p>
<p>逃げられない何かから逃げる為に、飛び降りて、死のうとしている。</p>
<p>死んで、個人的な終わりを迎えようとしている。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>私はその人を詳細に描く。</p>
<p>描けば描くほど、彼の身体に厳しい寒さが響いてくる。</p>
<p>上空に近いそこは、きっと風が強いだろう。</p>
<p>コンクリートの建物には、ぬくもりなどないだろう。</p>
<p>手や足がかじかんで、はやく暖かいところに行きたいと思うだろう。</p>
<p>足元の先に広がる死の恐怖や、ついに得られる解放感や安堵も、寒さでそれどころではないはずだ。</p>
<p>感情よりも感覚の方が、素直で、直接的で、自立している。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>一歩を踏み出せば、それで終わるのに。</p>
<p>ようやくこの状況まで足を運べたのに。</p>
<p>いろいろな決心をして、絶望をして、希望を捨てて、ここまで来たのに。</p>
<p>こんなに寒いなんて。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>恐怖のせいなのか寒さのせいなのかわからないまま、足が震える。</p>
<p>イメージしていた景色と違っていた。</p>
<p>もっと落ち着いた心で、迷惑をかけた人々に心から謝罪をしたり、力になってくれた人全員に心から感謝をしたり、ここまで自分を追いつめた物事すべてを憎んだり、そうやって、全身全霊で何かを思っているはずだった。</p>
<p>それなのに頭のなかは、寒い、の一言でいっぱいになる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>私はもうすぐ、屋上から視線を外す。</p>
<p>彼は震えたまま、いつまでも飛び降りずにいる。</p>
<p>駅が近づいて、マンションが視界から消えてしまう。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>私は改札を抜けて、ホームに立ち、電車を待つ。</p>
<p>一分もしないうちに電車はやってきて、まだ隙間のある車内に身を収める。</p>
<p>電車が走り出し、体が揺れる。</p>
<p>歩いて発生した体の熱と空調のせいで、額や脇が汗ばんでくる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>ほんのひとときだけ、窓の外にマンションが見える。</p>
<p>そこにはもう、彼はいない。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>私にはいつもわからなかった。</p>
<p>彼が飛び降りたのか、それとも飛び降りるのをやめたのか。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>いつも、わからなかった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>(終)</p>
<p>&nbsp;</p>
]]></content:encoded>
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		</item>
		<item>
		<title>いいないいな</title>
		<link>http://inner-clique.org/ooshima_ryo/3783</link>
		<comments>http://inner-clique.org/ooshima_ryo/3783#comments</comments>
		<pubDate>Mon, 25 Nov 2013 03:00:03 +0000</pubDate>
		<dc:creator>大島綾</dc:creator>
				<category><![CDATA[大島綾]]></category>
		<category><![CDATA[小説]]></category>
		<category><![CDATA[文章]]></category>
		<category><![CDATA[短編小説]]></category>

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		<description><![CDATA[&#160; 消しゴムっていいな。 &#160; &#160; 消せるから、いいな。 &#160; &#038;nbsp [...]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[
<p>&nbsp;</p>
<p>消しゴムっていいな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>消せるから、いいな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>ボールペンっていいな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>消えないから、いいな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>どっちも、いいな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>でも、消せない消しゴムは、いやだな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>消えちゃうボールペンは、いやだな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>ぼくはどうかな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>ぼくは、いいかな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>それとも、いやかな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>決めるのはだれかな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>お母さんかな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>もうそろそろ、帰ってくるかな。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>帰ってきたら決めてもらおう。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>帰ってきたら、おかえりって言おう。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><br /></p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>(終)</p>
]]></content:encoded>
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		</item>
		<item>
		<title>分銅</title>
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		<pubDate>Mon, 18 Nov 2013 04:00:11 +0000</pubDate>
		<dc:creator>大島綾</dc:creator>
				<category><![CDATA[大島綾]]></category>
		<category><![CDATA[小説]]></category>
		<category><![CDATA[文章]]></category>
		<category><![CDATA[短編小説]]></category>

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		<description><![CDATA[　田島の心に、分銅がゆっくりと沈み込む。 　着地した分銅は、心の底とくっついてしまったみたいに隙間なく触れあう [...]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[
<p>　田島の心に、分銅がゆっくりと沈み込む。</p>
<p>　着地した分銅は、心の底とくっついてしまったみたいに隙間なく触れあう。</p>
<p>　触れあいながらも、その重さはぎいぎいとのしかかる。</p>
<p>　地中に棲む巨大なミミズがいびきをかいてるような低い音が、心の底のさらに奥の方から聞こえる。</p>
<p>　それは単純な重い耳鳴りかもしれない。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　田島はてりやきバーガーを食べてオニオンスープを飲み干すと、店内に流れるクリスマスソングに耳を預けた。一つの曲が終わり、また次のクリスマスソングが流れる。普段なら気付かないうちに心が浮かれてしまう音楽も、今日に限っては田島の中の淀みをさらに混沌とさせるだけだった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　天気は文句の付けようのないほどの快晴で、久しぶりに食べたてりやきバーガーも初めて注文したオニオンスープも旨く、まだ正午前で一日の猶予がたっぷりとあるというのに、どうしても心の分銅はなくならない。それどころか、大小様々な分銅がピンセットで次々に置かれていった。</p>
<p>　田島の心には天秤も受け皿もなく、分銅はただ底に溜まっていくだけだった。濃すぎるどす黒いコーヒーが少しずつ流し込まれるみたいに、分銅は心の中にずしずしと溜まり、もたれてくる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　そんなイメージを捉えてしまうと、田島は本当に気分が悪くなってきてしまった。</p>
<p>　まだ消化していないてりやきバーガーとオニオンスープが嵐の海の荒波に揉まれるみたいに、胃の中でぐるぐると舞っている。これほど前触れも無く急激に気分が悪くなるのは、人生で初めての事だった。</p>
<p>　大声を出したり肉体的な運動をすることで、原因であるはずの分銅を霧散してしまいたかった。しかし、田島は胃の中の物が喉まで登り上がってくるのを察して、トイレに駆け込んだ。</p>
<p>　便器に顔を近づけて喉の奥から絞り出すような格好で、形を無くしたてりやきバーガーとスープを吐き出した。そのとき、何かがひっかかったみたいな痛みが喉に走った。</p>
<p>　未消化の食べ物と一緒に分銅が出て来た。便器にぶつかって、こつん、という音を鳴らす。</p>
<p>　短い呼吸をしながら唾を飲み込むと、胃液のすっぱさと一緒に血の味を感じた。分銅を吐き出すときに、喉が切れてしまったのだ。口の中を切ったボクサーみたいに、田島はごくりごくりと血を飲み込む。</p>
<p>　鉄の味と血の味は似ている、田島がそう思うと、心の底に溜まっていた分銅はどろりとした血液に変化し、心の中でゆらゆらと浮遊し始めた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　やがて分銅だった血液は滲むように薄くなり、暗い心の底で散っていった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p> <br /><br /></p>
<p>&nbsp;</p>
<p>(終)</p>
]]></content:encoded>
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		</item>
		<item>
		<title>余命一日の夢</title>
		<link>http://inner-clique.org/ooshima_ryo/3643</link>
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		<pubDate>Thu, 14 Nov 2013 06:00:49 +0000</pubDate>
		<dc:creator>大島綾</dc:creator>
				<category><![CDATA[大島綾]]></category>
		<category><![CDATA[小説]]></category>
		<category><![CDATA[文章]]></category>
		<category><![CDATA[短編小説]]></category>

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		<description><![CDATA[　ついにこの日が来てしまった、と目覚めたばかりの重い頭で健太は思う。 &#160; 　今日は医者から宣告された [...]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[
<p>　ついにこの日が来てしまった、と目覚めたばかりの重い頭で健太は思う。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　今日は医者から宣告された、余命最後の日だった。頭の中にある腫瘍が増殖して、どこかの機能が蝕まれて死んでしまうらしい。頭の中のどの部分にそれがあるのか、医者は詳しく教えてくれなかった。健太自身、頭や身体に痛みや変化などの症状を感じておらず、外から見ても健康的な普通の少年だった。それでも医者が言うには、健太の命は今日までとのことだった。日常生活に支障がないということもあり、健太の希望で最期の日まで自宅で過ごすことにしていた。</p>
<p><br />　普段と変わらない生活をしているのに、余命が着実に短くなっていく。昨日までは本当に自分が死んでしまうのか信じられないままで、ずっと現実味がなかった。しかし今朝ベッドの上で目を覚ましてから、死への不安や恐怖が堰を切ったように胸のあたりに溢れてきた。</p>
<p><br />　健太は一緒に寝ていた犬を抱きしめて、胸の中で撫で回した。今日で俺はいなくなる、会えなくなっちゃうんだよ、わかるか、と言いながら涙をこぼした。犬は首を傾げて健太を不思議そうに見つめ、傷口を舐めるみたいに涙を舌で拭った。</p>
<p>　わからないよな、俺は死ぬんだよ、死んじゃうんだよ、でも、わからないよな、きっと、と言って犬の身体に顔を擦り付けると、滑らかな黄金の毛が健太の涙を吸い込んでいった。</p>
<p><br />　こいつはいつ、俺の死に気付くのだろう、と健太は思う。きっと死というものはわからないだろうから、この日を境にただいなくなって、ずっと帰って来ないままで、それで、いつ俺が死んだということを把握するのだろうか。こいつ自身が死ぬときに、そういえばあの人はあの日以来姿を見せなかったな、と思うだけなのだろうか。きょとんとした犬の顔を見ていると、死を伝えられない悲しさが水脈を掘り当てたみたいに滾々と溢れ続けた。</p>
<p><br />　医者の宣告では、命は今日までということだったが、今日のいつなのだろうか。そして、どのようにして死が訪れるのだろうか。悲しさが恐怖と混ざり合って、喉のあたりがぐるぐると震えた。</p>
<p><br />　健太は犬を抱いたままリビングに行き、病院に行きたいということを母親に伝えた。涙で崩れた健太の顔を見ても、母親は動じることはなかった。</p>
<p><br />　あら、どうしたの、最期まで家のベッドで眠りたいって言ってたじゃないの、どうしたの、と母親は言う。健太が、どのように死ぬのか分からず恐いのだ、と言うと、そうね、と言って母親は納得した。</p>
<p><br />　病院に電話してみるね、と言って母親が部屋を出ると、健太は犬を抱えたまま一人になった。今日死ぬ、死にたくない、死ぬ、死にたくない、今日のいつ、どんな風に死ぬのだろう、死にたくない、こわい、死にたくない、と頭の中で叫びながら犬を強く抱きしめた。強く目をつぶって涙を絞り出し、薄目を開けて母親を待った。待っている間に、その部屋が自宅のリビングと全くの違うことに気付き、今いる世界が夢であることに気が付いた。</p>
<p><br />　健太は現実の自分に向けて呼びかける。夢だ、目を覚ますんだ、死ななくて済むんだ、身体を動かせ、起きろ、目を覚ませ、良かった、本当によかった、起きろ、目を覚ませ。</p>
<p>　<br />　<br /><br /></p>
<p>　結露した窓の向こうに白い空が見えた。時間が現実的に流れているのを感じたとき、良かった、夢だった、と健太はぼんやりと安心した。少しの間、窓の外の白色を眺めながら、夢の内容を丁寧に思い出して頭の中に記憶した。足元でまだ眠っている犬を両手で持ち上げて、抱き枕みたいに抱きしめる。眠りの途中だった犬は迷惑そうに大きなあくびをして見せた。健太は犬のお腹に自分の鼻を押し当てて匂いを嗅ぎ、よかった、ともう一度思った。</p>
<p><br />　でも、と健太は思う。</p>
<p><br />　悲しかった、死ぬ事よりも、死をわかってもらえないままいなくなる事の方が、どんなに寂しくて悲しいことか、思い知った、今まで、想像もしなかった、今までよりも少しだけ、大切に生きていこう、少なくとも、こいつが死んでしまうまでは。</p>
<p><br />　そう思いながら、健太は犬を抱いたまま再び眠りについた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>(終)</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
]]></content:encoded>
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		<title>夜の暗い海の話</title>
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		<pubDate>Mon, 11 Nov 2013 06:00:29 +0000</pubDate>
		<dc:creator>大島綾</dc:creator>
				<category><![CDATA[大島綾]]></category>
		<category><![CDATA[小説]]></category>
		<category><![CDATA[文章]]></category>
		<category><![CDATA[短編小説]]></category>

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		<description><![CDATA[　冷たくなった手摺に手をかけ、地面を一蹴して柵を跳び越える。着地した足元の先には暗い水面が蠢いていて、一歩踏み [...]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[
<p>　冷たくなった手摺に手をかけ、地面を一蹴して柵を跳び越える。着地した足元の先には暗い水面が蠢いていて、一歩踏み出せばその中に吸い込まれてしまう。飛び込み台みたいに出っ張った淵に立ち、柵に背中の体重をかけ、遠くに光る粒を見る。</p>
<p>　静止する工場の明かりと移動する船の明かり、寝息のようなビルの赤いランプ、夜更かしをするレインボーブリッジの輝き。暗い水と黒い空に挟まれた景色は、夜に合わせてコーディネートしている。水面から滑ってくる風はコートの裾を引っ張り、髪の毛を弄んだ。<br /><br /></p>
<p>　暗い水には甘い恐怖があった。つま先からそれが点滴みたいに流れ込んできて、やがて全身に廻ってくる。</p>
<p><br />　私は絡めていた手を柵から離し、体重を前にかけて一足を踏み出す。水面が靴の先に触れ、何の抵抗もなく道を開ける。水の音は聴こえずに、風の唸り声や遠くの道路の摩擦音が、まだ気付いてないみたいに鳴り続けている。</p>
<p>　膝まで飲み込まれると、渇いた砂漠の旅人みたいにスーツは水を飲み込む。水を含んだ生地が、しがみつくみたいに足に張り付く。景色が大きく回転し、視界は揺れる暗闇でいっぱいになる。</p>
<p>　私は目を強くつぶる。手や鼻や額に水滴が触れる。水の弾ける音がはじめて聴こえる。腰に冷たい水が触れたと思うと、もう頭の先まで暗い水に沈み込んでいた。夏のプールで何度も聴いたことのある音、液体のガラスがぶつかりあうみたいな音が頭の中に伝わる。</p>
<p>　水面から顔を出し、声とともに息を吐いた。濡れた耳に吹き抜ける風が冷凍庫にいるみたいに冷たい。届かない地面に怯えて目一杯もがく。犬かきと平泳ぎの混ざったような動きをして、その場に留まる。さっき見ていた光の景色がもっと遠くに見える。きっと私の行動に驚いて、後ずさっているのだ。</p>
<p>　数秒前まで立っていた淵に手をかけて、身体を引き上げる。呪いをかけられたように、スーツは冷たくて重い。柵に手をかけて全身を水面から剥がすと、身体が悪路を走る車みたいにがたがたと震えだした。携帯電話も財布も名刺もハンカチも、すべてが濡れてしまった。遅れてやってきた鳥肌が、全身を覆う。振り返って見ると、暗い水面には身体の痕が残っていた。震えながらじっと見ていると、めり込んだ水面のくぼみは周りの揺らぎに干渉されて段々と小さくなり、もとの暗い水面に戻っていった。</p>
<p><br /><br /><br /><br />(終)</p>
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		<title>かの女と、ビール。（文学フリマサンプル）</title>
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		<pubDate>Tue, 29 Oct 2013 06:00:33 +0000</pubDate>
		<dc:creator>大島綾</dc:creator>
				<category><![CDATA[大島綾]]></category>
		<category><![CDATA[小説]]></category>
		<category><![CDATA[短編小説]]></category>

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		<description><![CDATA[11月4日の文学フリマで販売する書籍の一部です。書籍では「かの女と、ビール。」というタイトルの、女の人とビール [...]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[
<p>11月4日の文学フリマで販売する書籍の一部です。<br />書籍では「かの女と、ビール。」というタイトルの、<br />女の人とビールにまつわるストーリーの短編小説を5編、書きました。<br />そのうちの一つの半分くらいですが、是非、読んでみてください。<br /><br /></p>
<p>&#8212;&#8212;&#8212;&#8212;&#8212;&#8212;&#8212;<br /><br />彼女と、ビール。　　川島しずか　十七歳</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><br />　私の好きな男が私の嫌いな女の髪を撫でた。それは間違ってはいなかった。それは自然な事だった。なぜならその私の好きな男と私の嫌いな女は付き合っていたからだ。恋人同士が触れ合う事に何一つ問題はなかった。寒さが本格的になってきた通学路で、私は一人でそれを見ていた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　私は私の好きな男の背中を眺めながら登校するのが日課になっていた。高校に入学してから三日後の全体朝礼で彼を見てから、言う事の聞かない飼い犬みたいに心が勝手に走り出してしまった。好きになってしまった理由なんか無限に出てくるし、そんなものがあろうがなかろうが、私は彼を好きだった。好きという感情以外に好きである理由はもう必要なかった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　高校二年になって、冬が来た。私がマフラーを引っ張り出してきた日から、彼の隣に女が現れた。女は私が嫌いな女だった。女は私よりも背が低くて私よりも瞳が大きくて私よりもスカートが短くて私よりも髪が綺麗で私よりも友達が多くて私よりも努力をしていた。</p>
<p>　彼の長くてでこぼこしたかわいい指が、女の髪を梳かすみたいにすり抜ける。私の毎朝の、いや、人生のひっそりとした喜びが、女の出現によってただの苦行に変わってしまった。口のあたりまでひっぱったマフラーの中で、はぁっと息を吐く。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「もうムリ」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　放課後、私は友達の洋子を連れて河原にやってきた。凍ったようなベンチになるべく触れないように腰をかけて、背中をきゅっと丸める。<br /><br /></p>
<p>「何が？」</p>
<p><br />　洋子は缶のチューハイに口を付けて言う。</p>
<p><br />「あれ」</p>
<p><br />　私はビールを喉に流しこんで、アルコールくさい息と一緒に吐き捨てる。冬の寒さで冷たくなったビールは体が凍えてしまいそうなほどおいしかった。冷たい空気とアルコールで鼻の奥がつんとひりひりする。</p>
<p>　あぁ、と洋子は興味なさそうに言う。</p>
<p><br />「あんた、まだ好きだったんだ」</p>
<p><br />　旬を過ぎたテレビの芸人を久しぶりに見たときみたいな言い草だ。この人まだいたんだ、みたいな。</p>
<p>　私が洋子の言葉に黙っていると、洋子は突き放すように言う。</p>
<p><br />「だってあんた、何もしてないじゃん」</p>
<p><br />　その通りだ。私は何もしていない。私の恋はただ毎朝彼の背中をスナイパーみたいに追いかけて妄想の光線を撃ちまくって想像の中で焼き尽くすだけだった。現実に話しかける事も、好かれようと努力をする事もなかった。だけどそれは正しかった。私にとっての恋は、それがスタートでそれがゴールだった。痛くて気持ちいい毒みたいなのを脳内で勝手に生成して、それを体中にちりばめて、それだけで満足だった。</p>
<p><br />「そうだけど……」</p>
<p><br />　薄い手袋を通して缶の冷たさが滲んでくる。</p>
<p>　そうだけど、あの女が現れてから、毒は私の中で暴れ出した。心地良かった成分は全部とげのある痛みに変わった。吐き気がして涙まで出るようになった。感情が手に負えなくなってしまったのだ。</p>
<p>　白いトイプードルを散歩しているジャージ姿の中年男を目で追いかける。男のゆったりとした歩調にトイプードルはしっかりと息を合わせて歩いていた。ジャージの擦れる音が、遠くなのにやけに耳に響く。</p>
<p>　私の硬い髪では、あの女のように彼の指はすり抜けずに絡んでしまうだろう。べたついていたりおかしなニオイがついていたりして、きっと彼を不快にさせてしまうだろう。</p>
<p>　そう思うと、泣きたくなってきた。泣きたかったけど涙が出なかったから、半分くらい残ったビールを一息に喉に押し込んだ。押し込んで、その場で吐いた。ゲロと一緒にほんの少しだけ涙をしぼり出す事が出来た。</p>
<p>　洋子は、何してんの、ウケる、と言ってげらげら笑っていた。</p>
<p>　そうだ、私の好きな男にもこんな風に笑ってほしい。どうせ好きになってもらえないのだったら、どんな風に思われてもいいから腹を抱えて笑ってほしい。</p>
<p>　洋子があまりにも笑い続けるので、私も涙と涎を垂らしながら、へへっと笑ってみせた。</p>
<p>　空き缶はつぶさないでベンチの端に置き去りにした。</p>
<p><br /><br /></p>
<p><br />続<br /><br /><br /><br /><br /></p>
<p>&#8212;&#8212;&#8212;&#8211;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><br /><br />あと半分くらい続きます、続きは書籍でどうぞ&#8230;.。</p>
<p>(ブースはB-33です)</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
]]></content:encoded>
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		<title>日陰の中で</title>
		<link>http://inner-clique.org/ooshima_ryo/3270</link>
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		<pubDate>Mon, 14 Oct 2013 03:00:40 +0000</pubDate>
		<dc:creator>大島綾</dc:creator>
				<category><![CDATA[大島綾]]></category>
		<category><![CDATA[小説]]></category>
		<category><![CDATA[文章]]></category>
		<category><![CDATA[短編小説]]></category>

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		<description><![CDATA[　ムラヤマカズオは一つの石に腰掛けた。 　石は玄関を出たところに置いてある庭石で、そこに座ると目の前に肥沃な畑 [...]]]></description>
				<content:encoded><![CDATA[
<p>　ムラヤマカズオは一つの石に腰掛けた。</p>
<p>　石は玄関を出たところに置いてある庭石で、そこに座ると目の前に肥沃な畑が広がり、その先には中学校が見える。アルミ製の杖に体重をかけてバランスをとりながら、船が沈没するみたいな早さでゆっくりと腰を下ろす。気持ちよい冷たさがズボンをすり抜けて伝わってくる。植えられた石榴の木にとまっている蝉が、朦朧とした声で鳴き続けている。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ムラヤマはかぶっていた帽子をとり、汗のない乾いた額を拭い、再び帽子を頭に乗せる。長い旅路の息を抜くように、ふぅ、と声を出す。庭石に座ると、ちょうど石榴の木の影になり、直射日光は避けられる。それでも突き抜ける木漏れ日と、吹きつける熱の風は息苦しかった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　目の前の畑の半分は土のままで、もう半分は中途半端に手入れされたトマトや茄子が、不完全な形で申し訳なさそうに垂れ下がっていた。ほんの一週間前まではヒマワリも元気に咲いていたが、今では太陽に血を抜かれたように、しょんぼりと項垂れている。風が強く吹くと、表面の乾いた土がさらさらと移動する。空の青や植物の緑や土の茶色が、太陽の家来みたいにどれも眩しかった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　一ヶ月前に友人が死んで、知り合いはみんないなくなってしまった。</p>
<p>　春日という名前のその友人はムラヤマと同い年で、一般的に長寿と呼ばれる年齢だった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　俺とお前だけが残っちまったな、とか、次はどっちの番かな、とか、そんなことを言って寂しく笑っていた。春日はその年齢にしては驚くほど健康的で、悪い所と言えば耳が少し聞こえない程度だった。毎日、朝と夜の散歩は欠かさず、話す声も大きく溌剌としていて（耳が遠いから自然と声が大きくなるのかもしれない）ほとんどの時間を笑顔で過ごしていた。それに対してムラヤマは、身体的な事情であまり遠くまで出かけることが出来ず、部屋の中で誰に宛てるでもない手紙を書いたり、若い頃に買った本を何度も読み返したりして過ごしていた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　春日の体はトラックに当てられて布切れのようにぐしゃぐしゃになって、十メートルも飛んだらしい。唯一欠落している聴覚が原因で、トラックのクラクションが聴こえなかったのだろう、と家族は言った。トラックの運転手はもちろん避けるものだろうと思い、減速をしなかった。固く巨大な鉄の塊が、時速６０キロの速度で春日の体を弾き飛ばした。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ムラヤマは耳にした事故の内容を元に、何度もその場面を想像した。春日の体がバンパーに、頭がフロントガラスにぶつかり（その時点で内臓や頭部への衝撃で死んでいただろう）鼻や口や耳や肛門から血や内臓や排泄物をまき散らしながら宙に舞い、靴は遠くの方まで飛んでしまい、着地のときにもう一度体の外側や内部が傷つき破壊され、また春日の中身が飛び出る。太陽の熱を吸い込んだ灼けつくアスファルトに、春日の肉体が静止する。血は黒いコンクリートの溝に流れ、内臓はすぐにみっともない臭いを放つ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　俺はそのとき何をしていたっけ、おまえのその事故が突然すぎて、そのまわりのいろんな事を忘れてしまった。でも、それを聞いたとき、ああ、やったなと、俺は思ったんだ。おまえがそうなったのは、おまえがそうしたかったからなんだろう。クラクションが聴こえなかったなんて、嘘だろう？　だって、おまえは俺と話すとき、聞き返すことなんて一度もなかったし、俺が大きい声を出すこともなかった。なんで耳が悪いなんて嘘をついていたのかわからなかったけど、事故の話を聞いて、ああ、この為だったのか、と思ったんだ。おまえは前からそのつもりだったんだろう？　なあ、そうだろう。おかげで俺は一人になっちまった。一人はつまらねえ。おまえと二人だけの時もつまらなかったけど、一人はもっとつまらねえ。でも、そのつまらなさも気にならなくなってくる。長生きってのは、何なんだ、一体。早くそっちにいきてえよ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　中学校のチャイムが鳴り、ムラヤマは長い間閉じていた瞼を開けた。待ち構えていたように光が目に飛び込む。眉をしかめた薄目で 校舎を見る。空の青色と校舎の淀みない白色が主張し合ってバランスをとっている。</p>
<p><br />「おじいちゃん、ただいま」</p>
<p><br />　目覚ましのように突き抜ける声に、はっとする。</p>
<p><br />「おかえり」</p>
<p><br />　ムラヤマは声の方を向いて、日陰の中で笑った。</p>
<p> <br /><br /><br /><br />(終)</p>
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